【まきチャレ2023 開催記念インタビュー | 発起人・出縄良人さん】魅力あふれる牧原の可能性を活かしてスタートアップ支援のきっかけに
牧之原市が主催するビジネスコンテスト「まきチャレ2023(第2回牧之原市チャレンジビジネスコンテスト)」の表彰式が2023年10月に開催されました。
第2回牧之原市チャレンジビジネスコンテスト(以下、まきチャレ2023)は、牧之原市の「産業資源」と「観光資源」を活用して、自らの事業を地域と共に発展させるビジネスプランを全世界のスタートアップ企業から募集し、評価するビジネスコンテストです。第2回開催である今回は、EXPACT代表の髙地が審査員として参加しました。
本記事では、まきチャレ発起人でもあり、まきチャレ2023運営事務局株式会社CFスタートアップス代表取締役の出縄良人さんに、まきチャレ開催のきっかけや牧之原市でのスタートアップにおける可能性についてお聞きしました!
ー出縄良人さんプロフィール(公式HP)ー
公認会計士・税理士
出縄良人税理士事務所所長
株式会社CFスタートアップパートナーズ代表取締役
まきチャレ2023について詳しくはこちら!
「小さいながらも魅力の詰まった街」まきチャレ開催のきっかけとは?
- 本日はよろしくお願いいたします!早速ですが、出縄さんは榛原町(現・牧之原市)のご出身とのことですが、ずっと牧之原市に住まわれていたのでしょうか?
よろしくお願いします!大学からは東京にいましたが、現在は牧之原に居住しています。
- 牧之原市に戻られたきっかけはありましたか?
牧之原市で税理士会計事務所をやっていた父が亡くなったことがきっかけです。当時、僕は会計士で税理士の資格を持っていたので、東京と牧之原を行ったり来たりしながら、事務所を引き継ぎました。そんな中でコロナ禍になりまして、それをきっかけに静岡に戻ることを決めました。リモートでも東京の仕事は継続していました。
- コロナ禍をきっかけに戻られたんですね。では、まきチャレが始まったきっかけについて教えてください。
牧之原にいるうちに地元の皆さんとの関係性が深まっていく中で、牧之原市さんにスタートアップ支援の提案をする機会をいただきました。ただ、牧之原って人口4万3000人で、いわゆる上場を目指すようなスタートアップはそんなに多くはありません。
ところが、既存の産業を見れば素晴らしいものがたくさん眠っているんですよね。お茶もそうですし、工業も盛んです。観光業でも、牧之原市は日本で唯一の公式競技ができるサーフィン専用プールがあったりするようなサーフィンのメッカであったり、静岡県唯一の空港があって、毎日のように国内線がいっぱい飛んでいるんです。さらに国際線もあるので、海外にも窓が開いていたりします。
そう考えると、牧之原は小さいながらも魅力のある街です。そこで、農業も工業も、さらに水産などあらゆる産業が揃っている、既存の産業を活かしたスタートアップ支援をやったらいいんじゃないかなというのがこのコンテストのきっかけです。
- 牧之原市の地域資源に着目されたのですね。実際に東京・牧之原どちらの暮らしも経験されたからこそですね!
元々僕は、上場会社向けにオープンイノベーションの支援をやっていました。上場会社がなかなか新しいものを生み出せない時に、大学やスタートアップと組んで、新しい知恵や技術、アイディアなどを取り入れて新規事業を作っていく、という取り組みです。
その経験を活かして、「地域のオープンイノベーション」を目的に、牧之原にあるスタートアップだけではなくて全国・全世界のスタートアップのお知恵を借りるような取り組みができたらいいなということで、まきチャレを提案しました。
ただ、まきチャレはイベント自体が目的ではないんですよ。ビジネスコンテストはあくまで手段であって、それをきっかけに牧之原にどんどんスタートアップが進出してきて、地域の企業とコラボして、相互で成長し、それが牧之原にとどまることなく事業拡大していくことで新しい事業が全国・世界へと広がっていく。これを実現することで、牧之原市の市内総生産を4年間で1.5倍ぐらいにし人口増を図ろうといった提案をしたら、市長が賛同してくださった、という経緯です。
- ありがとうございます。私自身初めて牧之原市のことを知った時、お茶やサーフィンなど可能性が無限大だということに驚きました。
そうやって静岡県外の人に知ってもらうことも重要で、牧之原市としてはまきチャレを通じて市のPRができることは大きなメリットですよね。
- ビジネスコンテストを通じた地方創生にも繋がりますね。「イベント」で終わってしまうケースが大半だと思いますが、かなり珍しい事例なのではないでしょうか?
たしかにそうですよね。僕らとしては、コンテストはあくまで入口だと考えています。ほとんどの場合、イベントだけで終わってしまうんですよね。ところが、まきチャレはイベント後の活動の方が活発です。今、市の担当者さんが受賞したところを繋ぎ回っていたりするんです。私もほぼ同行させていただいてますけども、これから会社が牧之原市にどんどんできていきます。
また、今回入賞した企業さんだけではなくて、ファイナリストやセミファイナリストを入れると36社いるうちのほぼ全部の企業さんと面談をしておりまして、その後で、さらにセミファイナリストに漏れてしまったところにもお声をおかけしています。
賞を取れなかった会社さんや直接お話を聞けなかった会社さんでもいい構想を持っていらっしゃるところはたくさんあって、そこもぜひ進出支援をさせていただきたいというのが方針です。
ビジネスコンテストを入口とした地域の発展を目指して
- 実際にコンテストのあとには地域でどのような事業が始まっているのでしょうか?
大賞を受賞されたParaLuxさんは、牧之原との協業という意味でどんどん事業が進んでいます。表彰式で紹介されたのが牧之原市の廃校でウェディングをした例なのですが、牧之原市ではプランナーさんと牧之原の地元のカップルさんが一から結婚式を手作りしたんです。ParaLuxさんはプランナーさんとカップルをマッチングするプラットフォーム(ブラプラ)を運営する企業様で、そのブラプラで廃校でのウェディングの事例を掲載されていました。今は、マッチングだけでなく実際にウェディングを企画運営する会社を牧之原市に作るという話が進んでいます。
これを進めて、「結婚するなら牧之原」が定着していくことを目指しています。茶畑ウェディング、空港ウェディング、海岸でのウェディング、など地域資源を活用すれば無限に可能性があります。
また、市長特別賞を受賞された「spread with」さん(ペットと訪れることができるお店が検索できる「ぐるわん」を運営)も、牧之原に会社を作っています。
こちらの企業さんは、実際に牧之原市に滞在する中で市内中の飲食店やホテルを回って、ペットをどのぐらい受け入れているかというリサーチをされました。実際、ペット可と言ってなくても実は可能である、ということが結構あるそうですよ。お店側にとっても、ペット向けのメニューを増やすと売り上げが上がるようなこともあり、どんどん登録するお店が増えていくと思います。それをずっと続けていくと、なんと牧之原は「日本一ペットフレンドリーな街」になるかもしれません。
ペットを飼っている人から見ると「牧之原に旅行に行こう」となりますよね。これはすごい経済効果で、このような形で事業を通じて牧之原市がもっと発展していくことを目指しています。
「牧之原市をウェディングタウンにしよう」「ペットフレンドリータウンにしよう」といった、地域とのコラボレーションを通じて起こす仕掛け、とても面白いですよね。
- 確かに、事業の数だけ可能性がありますね!今年から、牧之原市のインキュベーション施設で、まきちゃれに応募した場合にオフィス利用料の3分の1を市が補助する制度が創設されたとお聞きしました。ここにはどのような経緯があったんでしょうか?
第1回を終えて、牧之原に進出したいという声が多く届きました。実際に牧之原市に来て事業を始めていくとなると、拠点が必要になってきますよね。偶然、私の会計事務所に土地があったので、会計事務所併設のインキュベーション施設を作ったら喜んでもらえるかなということで施設を作ったんです。そこから、今年第2回を開催する上でこの制度ができました。
- 第1回を終えてのニーズを反映したものだったんですね。第1回が終わって1年たちますが、実際にコンテストから1年経った企業様との取り組みはどのようなものなのでしょうか?
具体的に動いてるのは大きく2つです。
まず、昨年の第1回で優勝したウクライナの「S. Lab(エスラボ)」さんは、牧之原市で実際に会社を作って事業を進めることまで決まっています。コンテストでは茶園から生じる茶の枝や根などを活用した包装材の開発を提案されていましたが、その材料を供給いただける農家さんも確保しておりまして、工場の稼働に向けて動いている状況です。
また、ミャンマーの「GREENOVATOR PTE. LTD.」さんは農業アプリをやっている会社で、現在タイやカンボジアの農家さんが実際使っています。これ、とても便利なんですよ。
農家さんが壁にぶつかったときに質問すると、専門家が答えてくれるというアプリになっています。この中の機能として日本でも必要なのは、農家さんが長年培ってきた知恵を標準化して共有することです。農家さんの高齢化が進んでいて、若い人も農業に参入しやすくすることが今すごく求められています。
このアプリを日本で普及させることを目的に日本法人を作りまして、今うちのインキュベーション施設の中に入ってるんですよ。農家さんのヒアリングをしながら、アプリ開発していくというステージにようやくたどり着きました。
- 日本国内で、海外からスタートアップが来るピッチイベントって少ないんじゃないかと思います。どのような背景があるのでしょうか?
最初は予定していなかったのですが、第1回の時期がウクライナ侵攻と重なっており、ウクライナのスタートアップを一緒に支援できたらいいねという話があがりました。たまたまロンドンのパートナーに声をかけたら、3社紹介してもらえるということでスタートアップを紹介してくれたんですよ。その中の1社が大賞まで受賞しました。
そこで、他のパートナーにも声をかけたところ、昨年は10社・今年は25社が出てきてくれました。その中には、海外のスタートアップイベントで僕が直接お声がけをしたところもあります。そういったところで「日本のビジネスコンテストに関心ありますか?」って聞くと「ぜひやります!」って前のめりに興味を示してくださる企業が多いんですよ。
日本以上に、海外のスタートアップの皆さんはグローバル展開が当たり前になっています。ただ、まだまだ日本に来るスタートアップが少ないのは、少しハードルが高いイメージがあるんですよね。言葉が通じないし、なんか取引がやりづらそうだし変な慣行があるし、といった感じで。
だからこそ、逆にこういった入口を用意すると、できるならぜひ日本に事業進出したいという潜在的なニーズはすごくあると感じています。しかも、日本に進出するというのはハードルが高いからこそ、それだけでブランドになったりすることがあるんですよね。
牧之原のインキュベーションセンターに拠点があり、牧之原市が全面サポートして各所にも繋いでくれるという場所を作ることで、その窓口のような役割にしたいと思っています。
- 地域に根付いた企業さんや地域のものを活用した事業ともコラボレーションが進んできているのでしょうか?
実際にまきチャレ2023の出場企業さんも各所と繋いでいっていて、その中に「Regene Bio Pte. Ltd. (MUU)」さんという牛を使わないでミルクを作る会社があります。牛乳の味を決めるタンパク質が二つあることを突き止めて、このタンパク質を培養するんですね。大きく増やしてそこにアーモンドミルクの脂質とかを加えるんです。そうすると牛乳の味がするアーモンドミルクができる、といった事業です。
このミルクを、国内の大手飲料メーカーさんとコラボレーションして商品を作ろうというアイデアが出ていたりします。
このように、あらゆる方面の方々が色々な形で動き出しています。
「牧之原モデル」を全国に広めて、新規事業と地域のコラボレーションを生み出す
- 日本だけではなくて海外のスタートアップが入ることによる活性化にはすごく大きな可能性がありますよね。第1回での初めての試みと今年それを経ての第2回というところで、市との関係性など大きく変わったなと感じられたところはありますか?
牧之原市さんののめり込み方も大きく変わってきましたし、参加企業やお客さんも増えました。でも最初の頃は、本当にできるの?といった雰囲気はありました。そこで、僕が「参加企業を100社集めますよ」って言いましてね(笑) 実際100社までいかなかったけど91社集まりました。
過去に事例がなかったからこそ最初は不安の声もありましたが、ちゃんと伝えさえすれば出場するところはあると1回目で分かったので、2回目にはそういった不安の声はありませんでした。スポンサーに関しても、第1回から第2回で14社から23社に増えておりまして、来年はより多くの皆さんと協業できたらと思っています。
- 行政とスタートアップは、スピード感といった面でもなかなか珍しい組み合わせになると思っていたので、お話の中で市長が一緒に賛同してくださったりとかメンバーの方が走り回ってといったところが意外だなと感じました。
こんなに動きのいい市は珍しいと思います。それも人口4万3000人の小さな町で、リーダーシップをとれる方がいらっしゃるからこそ実現できたのかと思います。
- 今後第3回、第4回...とどんどん大きくなっていくと思いますが、将来的にまきチャレを通じた展望や県を巻き込んでの構想などはお持ちでしょうか?
まきチャレが一つのモデルケースになって、こういった動きが他の市町村に広がってくといいと考えています。特に海外に向けての入口としては、明治維新の開国に似てまして、港を開いているといったイメージなんですよ。
開国のときって、最初は横浜と神戸、その後10個ぐらいどんどん港が開いたじゃないですか。そうするとその開いた港町ってみんな栄えたんですね。同じように、スタートアップの進出拠点になっていくと、栄えることができるわけですよ。そういうところを10ヶ所ぐらい用意したいなと思っています。「牧之原モデル」としてその10ヶ所の地域がこの取り組みを進めていくことで、もちろんそれぞれ協調もできるんですよ。
こういう動きがどんどん広がっていくっていうのも重要だなと思っております。
- 牧之原市の活性化を通じて開港というか、全国に広がっていって海外のスタートアップも入れる窓口が増えていくんですね。
前提として、ただ入り口になるだけではなくその地域と「コラボしていただく」ことが基本ですからね。地域産業を置いてきぼりにせず、そこに人が入ってきて人口も増え、海外の人材も定着していくことが理想です。
- ありがとうございます。では最後に、まきチャレには国内外問わずどういったスタートアップの企業に参加してもらいたいと思われますか?
そうですね。基本的には、ご自身のやられている事業の社会における価値をしっかりと認識されて、それを広げて大きく社会に役立てたいと思っていただけるスタートアップであれば、どんな産業でもみなさん大歓迎です。
逆にスタートアップにこだわらず幅広い形態のみなさんのご参加もお待ちしています。アントレプレナー型の、いわゆる創業者が起業して伸ばしていっている「スタートアップ」ももちろんですが、例えば上場会社の新規事業なども参加されていたりします。それから、老舗の中小企業さんが新しいアイデアを出すというのもいいですよね。
新しいことにチャレンジしたいと思ったら、ここにチャンスが眠っています。その思いを形にする第一歩として、まきチャレに応募していただきたいです。
- ありがとうございました!まきチャレにかける想いや新しい地方創生の形など、1つのビジネスコンテストから広がる可能性にワクワクしますよね。今後の第3回に向けての取り組みからも目が離せません!