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【まきチャレ2023開催記念インタビュー | 株式会社オンラインドクター.com前編】オンライン診療でいつでもどこでもお医者さんにかかれる世界を

昨年、牧之原市が主催するビジネスコンテスト「第2回牧之原市チャレンジビジネスコンテスト(以下、まきチャレ2023)」が開催されました。

まきチャレ2023は、牧之原市の「産業資源」と「観光資源」を活用して、自らの事業を地域と共に発展させるビジネスプランを全世界のスタートアップ企業から募集し、評価するビジネスコンテストです。第2回開催である今回は、EXPACT代表の髙地が審査員として参加しました。

本記事では、まきチャレ2023でファイナリストに選ばれた、株式会社オンラインドクター.comの代表鈴木幹啓さんにご自身の経歴や事業について、現在のオンライン診療の現場が抱えている問題などを医師の視点でお聞きしました。

まきチャレ2023について詳しくはこちら!
https://expact.jp/makichare2023/

株式会社オンラインドクター.comは「患者が必要な時に、必要な場所で、いつでも、すぐに、自分にあった医療機関とマッチングできる世界」をビジョンに、患者が予約なしでオンライン診療を受けることが出来るメディカルプラットフォーム「イシャチョク®」を提供しています。医師も自身の手の空いた時間で、仮想待合室にいる患者にアクセスすることが出来るため、効率的に新規患者を獲得することが出来ます。

イシャチョクHP:https://ishachoku.com/?cats_not_organic=true
X(旧Twitter):https://twitter.com/ishachoku?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor

ー本日はよろしくお願いいたします。鈴木さんは和歌山県新宮市でクリニックを開院し「日本で一番忙しい小児科医」と言われていらっしゃいますね。これまでのご経歴についてお聞きしたいです。

医学部を卒業後、臨床を9年経験し大学に戻らず、2010年5月に開院しました。一日に200人ほど訪れるクリニックになっています。この他にも、地方医療の少子高齢化を見越して2015年に介護施設を、以降不動産業やフィットネスクラブなど複数の事業を展開しており、現在はオンライン診療サービス「イシャチョク」も手がけています。

ーありがとうございます。そもそも、鈴木さんが小児科医を志したきっかけは何だったのでしょうか?

中学生の頃は、家業である理容店を継ごうと思い、専門学校への進学を考えていました。ただ、中学校の先生に進路についてよく考えるようアドバイスされ様々な職業を調べた結果、人を助ける医師に憧れるようになりました。
小児科医を目指すようになったのは研修医時代に子供の死に直面したことがきっかけです。高齢で亡くなる場合と子供が亡くなる場合では死への受け止め方が異なり、子供の命の尊さや重さを痛感したと同時に耐えられないものがありました。特に小児科医は不足していることもあり、このような道で活躍したいと思い自分が小児科医になろうと思いました。

ーそうだったんですね。実際に現場を目の当たりにすると、言葉では表せない感情で溢れると思います。小児科医が不足しているとのことでしたが、現在の日本の小児医療はどのような状況なのでしょうか?

医療の集約化により、地方と都市部の医療体制の格差が起きています。病院は、高度医療を提供する機関と、そうでない機関といった形に分かれています。また、ある大病院の医師は2日に1回は当直、又は待機しなくてはならず、また別の大病院では6日に1回当直がありましたので1年のうち2か月程当直ということになります。
このため、入院が必要な子供たちとそこに関わる医師を大学病院などの大病院に集めることで、集中的に治療することができ、これは理にかなった体制だと言えます。

ですが、地方の大病院での集約化が起きると、命に関わるほどではないが入院が必要な子供たちが入院しづらくなってしまいます。小児救急やNICUといった救急を受け入れられる病院が集約されてしまうので、以前は車で片道30分ほどだった病院が2時間かかってしまう、というようなことが起こります。
医師としても、命に別状はないが入院が必要な子供たちを救急車やヘリで搬送する、という選択は取りづらいですし、車で2時間かけて行くことも安易に勧められません。このような背景から、地方の子供たちが大病院にかかるハードルが高くなっていると感じます。

ー医療体制にも地域差が出てきてしまっているのですね。開院の地として和歌山県新宮市を選択していますが、この土地にした理由はありますか?

もともと、三重県の御浜町で1人院長を5年ほどしていました。和歌山県新宮市は御浜町から車で30分ほどで行くことができ、人口も2万6千人と御浜町よりも大きな都市です(御浜町は1万人ほど)。また地方医療の場合、中核都市で開院し周辺の患者が診療にくる、という形になっています。御浜町で働いていたことから、隣の新宮市で開院すればより多くの患者を看れるのではないかと思いました。

ー地域の拠点になる、ということですね!クリニックの開院以降も様々な事業を進められてきましたが、オンラインドクター.comの起業背景を教えてください。

コロナ禍で医師側がオンライン診療を進めなくてはならなかったのですが、医師側には診療報酬点数というものがあり、オンラインの場合はこの点数が低いです。このため、通常の診療時間にオフラインでの患者さんがいるにも関わらず、オンラインで診察することは医師にとってはデメリットです。
また、オフライン診療とオンライン診療の並行も、オペレーションが複雑で難しいのが正直なところです。オフラインで時間が押してしまった場合、オンラインの患者さんに電話等で連絡するなど、病院側の事務の手間が加わり医師の精神的負担も大きくなります。患者さん視点ではオフラインの場合、自分の前後にいる患者さんを見ることが出来るので、自分の順番を把握することが出来ます。

一方、オンラインの場合、自分の前後を確認することが出来ないので、待ち続けなくてはならないなど不満が貯まりやすいです。そもそも、オンライン診療をやっている病院を探さなくてはならないという課題もあります。医師側にも患者さん側にもストレスの要素が多いのでこれを解消しつつ、医師にもメリットがあるようなサービスを作りたいと思いました。

ーそうだったんですね。小児科医から始まり、介護施設や公園など様々な事業を手がけていらっしゃいますが、ご自身の中にどのようなプランなどがあるのでしょうか?

大学時代に、ITを利用した医学の発展が出来ないか模索していました。ですが、実際に医者になり現場に入っていくと忙しさに翻弄され、医療業界の発展のための行動は出来ていませんでした。そんな中でコロナ禍になりIT化が強いられたことで、大学時代の目標を思い出し、オンライン診療の事業に取り組む、といった流れになります。

引用:イシャチョク

ー大学時代の想いがきっかけだったんですね。コロナ禍でIT化が進んだとは言え、お話を聞いてみると、そもそもオンライン診療自体の障壁が高いように感じました。

そうなんです。オンライン診療を行っている病院を探さなければなりませんが、かかりつけはオンライン診療をやっていないことがほとんどです。そのため、初めて看てもらう医師にかからなくてはならないという点があります。
また、予約制なので、診療まで日数が空いたり時間も自由に選べず、すぐには診てもらえないです。ですが、オンラインであれば上記のような様々な工程による負担を減らし、病院に行きたい時に行ける環境を提供することができます。

イシャチョクはすぐに診療可能な医師が既に待機している状態なので、待ち時間が長いという問題を解決できます。また、医師側も患者さんが予め記入した問診表を元に自身が診療できるか判断できるので、ミスマッチを減らすことが可能になります。実際にイシャチョクを通じて私が診察する患者さんはアレルギーや喘息、旅行先での体調不良等欲しい薬がある程度決まっており、看てもらえるところが私のところしかなくて来る人が多いです。必要な時に、必要な場所で自分に合った医療機関とマッチングすることで、通常の診療と同等の診療をオンラインで提供することが出来ます。

ー待ち時間の解消とミスマッチの減少を通じて、ビジョンを体現しているのですね。オンライン診療を進める上で医師の診療報酬点数が低いという問題がありましたが、この他にも医師側が抱えている問題はありますか?

医師の高齢化ですね。特に過疎地域では医師の高齢化が進み、HPが無かったり電子カルテの導入がされていない病院もあります。このような病院でオンライン診療を導入することはできないので、デジタルに慣れている若い世代の開業が増えてほしいと思っています。
例えば、私は和歌山県新宮市のクリニックで働いていますが、患者さんは全国にいます。地方で開業すると生計を立てるのが難しいと考えがちですが、オンライン診療であれば全国の患者さんを相手に出来るので、オフラインのみの場合よりも多くの患者さんを診ることが出来ます。当直や待機などの隙間時間を活用することにより、医師の働き方も変わってくるのではないかと思います。

ー確かに、出勤時の待機中など患者さんがいない時間にオンライン診療が出来るのは、患者さんと医師の双方にとって良い環境だと感じました。若い世代の地方開業の他に、提供したい小児医療やオンライン診療の姿はありますか?

通常の診療と同等のオンライン診療の提供を拡大していきたいです。オンライン診療を受診する患者さんは、通常の診療と同じようなものは難しく欲しい薬をもらうために利用する方が多く、ここがオンライン診療の壁でもあります。

現在、ノートパソコンやスマートホンなどに搭載されているカメラを6秒間見ることで、患者さんの血圧・脈拍数・呼吸数・乳酸値・血糖値・酸素飽和度を測ることのできる技術があります。例えば、血糖値が取れるようになれば、糖尿病の血糖管理がオンラインで出来るようになる、などが分かりやすいかもしれません。
イシャチョクに実装しているものは心拍数・血圧・乳酸値・酸素飽和度で、映像をAI解析することで医師に伝えられるようになっています。医療機器認定を得ることで、数値を参考値ではなく、実際の数値として使うことが出来るため、今年中の医療機器認定を目指して筑波大学と共同研究を進めています。

また、オンライン診療はすぐに受けられるという特徴がありますが、これは救急外来になることが出来るということでもあります。救急にかかる患者さんの内、小児救急の場合は9割5分、一般でも9割は救急の必要がない、翌朝の診療でも間に合う症状です。このような患者さんを救急で運ぶ前にオンラインで診察することで、病院と患者さんに必要以上の負担がかかることを防ぐことが出来ます。このために、24時間265日いつでもオンライン診療を受けられるよう、体勢を整えていきたいです。

引用:仮想待合室型オンライン診療 イシャチョク®

ー夜間で病院が開いていないから”とりあえず救急に”という選択を取りがちですよね。オンライン診療が普及すれば、”とりあえずオンラインに”の流れに変わる気がします。今後の事業の方向性もお聞きしたいです。

プラットフォームがあっても医師がいなければ診療できないため、医師側の人的要員の確保を進めていきたいです。具体的には、海外の医学部にいるポスドクの方たちや大病院の当直の先生など、夜でも稼働している医師を巻き込んでいきたいです。また、需要は人口に比例して、現在は関東や名古屋、大阪、仙台や札幌での利用が多いですが、患者さんのニーズがあるところに届けるために、夜間救急を行っている病院とのアライアンスも進めています。まきチャレが行われた牧之原市でも進めている途中です。

また、オンライン診療のガイドラインを守りながら、3者間通話を普及させていきたいと思っています。現在のオンライン診療は、医師と患者の2者間での通話が基本となっており、医師と患者双方の同意があった場合のみ、他の人を追加して3社間通話が可能になります。現行のガイドラインだと医師の判断で追加できないので、患者さんのご家族やケアをされている方に正しい状況が届かないという問題が発生しています。技術の進歩にガイドラインが追い付いていない状況なんですね。コロナによりオンラインミーティングツールが普及したことで、医師にとっても患者さんにとっても3社間通話が簡単になりました。これらの技術を使って介護にも参入していきたいと思っています。

ーガイドラインが技術に追いついていない問題は、様々な業界でも起こっていますよね。特に介護への参入を目指す理由はありますか?

まず、症状や内容の伝達が伝言ゲームになることを防ぐことが出来る、ということがあります。介護施設が抱えている問題として、一回の通院が1日がかりであるということがあります。支度から移動、病院での待機や薬の受け取り、帰宅など全ての工程を見ると1日かかってしまい、職員さんも1日つきっきりの状況になります。人手が足りていない介護業界で1:1の対応を続けることは、出来れば解消したい現状ですね。オンラインでの診療でも問題ない通院はオンラインに切り替えることで、より多くの方が通院できるようになったり、職員さんも他の仕事をできるようになります。

技術の進歩にガイドラインが追い付いていない部分に戻りますが、マイナンバーカードと保険証の統一が進んでいますよね。でも、現状だと保険証を使っても、過去の診療の情報を医師は見ることが出来ないんです。システムベンダーへの指示が遅れているために、診察に必要な過去の情報を確認することができず、患者さんから直接聞く以外に方法がありません。そのため、オンラインドクター.comでは患者さんに自分でアップロードしてもらうようにしています。オンライン診療の普及と共に、「医療情報は国に預けるのではなく、自分で管理するもの」という意識も広まれば、と思っています。

ーそうだったんですね。保険証だけでは、過去の情報を見ることが出来ないのは初めて知りました。

医療は規制が多いので、他の業界の人が参入するのは難しいですよね。だからこそ、医師が開業することで、必要な変化を起こしていく必要があると思います。

元旦に能登半島で起きた地震により被災した方々に、有志の医師たちでオンライン診療の提供をはじめています。現場に医師がいなくても看護師さえいれば、医師とつなぐことで患者さんへの指示が出来ます。24時間365日病院にかかれるという環境は、有事の時こそ役に立つのではないでしょうか?

近い将来には、オンライン診療とドローンを組み合わせた医療支援や、メンタルヘルス面でのケアなども取り入れつつ、災害時のオンライン診療の活用を通じてお力になれたらと考えています。

ー確かに、避難先などで風邪や感染症、精神的な負担も大きくなる中で、有事でも使えるサービスは、特に自然災害の多い日本にとって必要なインフラだと感じました。本日はお忙しい中、ありがとうございました。

いかがでしたでしょうか?都市部と地方の医療環境における格差から鈴木さんが小児科医を目指した想い、医療業界における技術とガイドラインの現状まで、幅広くお話を聞くことが出来ました。軽い風邪から命に関わる事態まで起こりうる医療業界において、オンライン診療を進めることは、必要な医療をより多くの人に届けることが出来るようになる方法なのではないかと感じました。また、規制が多い分、技術の進歩にガイドラインが追いつかなくなるのは避けられない反面、それらが医療業界の進歩を妨げてしまっているようにも思いました。このような環境でも、医師の皆さんがより良い医療環境のために働いていることで、日本全体の医療体制も整っていくのではないかと感じました。

前編の記事はここまでとなります。後編では取締役兼CRO兼CAOである細井康平さんに、オンラインドクター.comの事業についてより詳しくインタビューしました。ぜひ後編もご覧ください。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

[会社概要]
【会社名】株式会社オンラインドクター.com
【URL】https://corp-online-doctor.com/
【設立年月】2020年10月
【代表者】代表取締役CEO 鈴木 幹啓
【所在地】〒108-6028 東京都港区港南2-15-1 品川インターシティA棟

(執筆:金野彩音


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