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【静岡市アクセラレーションプログラム2023採択企業インタビュー | 合同会社ノーエン】職人の勘を数値化し「おいしい」の可視化を実現

静岡市が主催するアクセラレーションプログラム「静岡市アクセラレーションプログラム」のデモデイが2月22日(木)に開催されました。

静岡市アクセラレーションプログラムは、成長意欲の高い事業者や起業家、外部パートナーとの協創活動によりさらなる事業拡大を目指す事業者へ集中的に支援を行い、、静岡市経済の持続的な発展と新たな産業や雇用の創出を目的としています。サポート企業としてEXPACTも運営に携わっており、デモデイのアントレプレナーシップセミナーには、代表の髙地も登壇いたしました。

本記事では、採択企業である合同会社ノーエンの代表である齋藤典之さんに、起業の背景や事業内容、ノーエンのこれからについてインタビューを行いました。
ぜひ、最後までご一読ください。

静岡市アクセラレーションプログラムに関する詳しい記事はこちら↓
https://expact.jp/shizuoka_acceleration/

デモデイの様子はこちら↓
https://youtu.be/GAHZU0HV_b

ー本日はよろしくお願いいたします。まず、ご自身の経歴など、簡単な自己紹介をお願いいたします。

かつての静岡県富士川町、現在の富士市で生まれ育ち、大学生の時に上京しました。大学では土木工学を専攻した後大学院にも進み、同じく土木工学科で海の波の研究をしていました。波を見ると微分方程式に見えてしまう、そんな学生でした(笑)

修士課程卒業後は石炭を掘る会社に就職しました。土木系の学生は建築会社など、進路がある程度決まっているのですがこの点に疑問を持ち、あえて専攻と直接繋がりの無い分野に挑戦しました。入社後は北九州にある石炭化学プラントに配置され、工場の生産管理にも携わっていました。16年程働いたのですが、心のどこかに「自分で事業をしてみたい」という思いがあったため、現在のノーエンを立ち上げました。実は、実家にみかん畑があり農業が身近な環境で育ったのですが、ここから派生して産業としての「農業」にも関心を持ったことも起業の背中を押しました。

ーありがとうございます。分野は変わっているものの、自身の関心に沿って生きて来られたことが分かります。テーマとして農業を選んでからすぐに起業されたのですか?

具体的なアイディアは、以前に参加した北九州市の新農業者育成研修から着想を得ました。工場では数値に基づいて生産管理を行う一方、農業は経験や勘に頼る部分が大きいという課題があります。前職の経験から「工場が数値に沿って生産するのだから、同じ製造業である農業も数値に沿って生産できるのでは?」と考え、改善の可能性を感じました。

農業が大きく影響を受けるものの一つに「天気」があります。農作物の味を説明する際に「日照時間が多かったので~」「降水量が少なく~」など、天気に関する言及が入ることが多いですよね。それくらい、天気は農業に直接影響を与えます。たまたま私が気象予報士の資格を持っていたので、天気を予報できる技術も数値に沿った農業を行う上で活かせるのではないかと考えました。

ー気象予報士の資格をお持ちなのですね!とても難しい試験だと聞いたことがありますが、今回の起業のために取得されたのでしょうか?

そういう訳ではないです。新卒で入社した会社で取らなければならない資格がいくつかあったのですが、全て取得してしまい他の資格を取ってみようと思い取得しました。土木や農業など自然科学に興味があったのも大きかったと思います。3回不合格で、4回目で合格しました。

ーそうだったんですね。初めは自身の興味が故に行っていたことが、後に線となって現在の事業に繋がっていますね!「数値に沿った農業」とは、具体的にどのように行うのでしょうか?
工場で製品を生産する過程と、農場で農作物を生産する過程の違いから、説明しますね。工場の場合、大きく ①注文②生産③検査④製品 の4つのフローに分類されます。製品になる前に検査を行うので、注文や規格に合わないもの、明らかな不良品などが市場に流れることを防ぐことができます。しかし農作物の場合 ①生産②検査③注文④製品 のフローになっており、生産済みで検査を通過したものでも、注文が無ければ余剰生産物となってしまいます。事前に条件設定が出来ないために需要と供給をすり合わせるのが難しい、ということです。

ー同じ製造業でも生産のフローが異なるために、生産する上でのリスクが大きくなってしまっている、ということですね。需要と供給が大きくずれてしまう具体的な事例はありますか?

日本の主食であるお米が、需要と供給の不一致が起こります。お米は冷凍ご飯など業務用に使われる需要が大きいのですが、この市場では安く売られています。もし不作の場合、生産者たちは特に高く買ってもらえる市場に売りたいので高く売れる品種を作る傾向があります。しかし結果として不作にならなければ、その市場では需要が相対的に少ないために売れず、必要な部分にお米が届かない、という状況が発生します。消費者のもとに商品が届かないこともあり得ます。

このような気象によるリスクを、天気を予測することで減らしていくことがノーエンの目的です。

ー日本でお米が取れずに海外のお米を輸入してくる、なんて事態もありましたよね。天気を予測することでより効率的な農業が可能になるのですね。農家の皆さんが天気を予測するために、どのようなプロダクトまたはサービスを提供しているのでしょうか?

AgriCという農業向けデータプラットフォームを提供しています。アメダスの情報を利用し、自身の生産場所の過去の天気をピンポイントで把握することが出来ます。最大の特徴は、計測機器の設置が不要なことです。オープンデータを利用することで、経験者もこれから農業を始める人にもメリットがあります。経験値の高い生産者の場合、自身の頭の中のデータセットを元に農業を行ってきましたが、気候変動の影響により経験のない状況に直面しています。その中、過去の定量的なデータがあれば、経験から推測するよりもより正確な予測をすることができます。

また、AgriCはオープンデータを利用しているため、プラットフォーム利用前のデータの取得も可能です。未経験者も自身が農業を始める前のデータを取得することが出来るので、経験が無くても天気を推測することが出来ます。

ーありがとうございます。経験が無くても経験者に近い判断が出来ることは、農業において重要な点であるように感じます。特に雨のデータを提供しているのはなぜなのでしょうか?

農作業のスケジュールは雨に左右されるからです。一般的に農業は下記のような生産過程となっており、どの段階でも降水状況が関係します。

①※耕耘(こううん):耕耘では雨が降ってしまうと畑がぬかるんでしまい、トラクターを走らせたり、草を刈ることが出来ない
②種まき:直後に雨が降ると種が流れてしまうが発芽には雨が必要
③生育:雨が降る前に病害虫を予防しなくてはならない
④収穫 :雨が降ってしまうと収穫が出来ない
※耕耘:たがやして作物を作ること(引用:コトバンク

適切な時期に適切な量の雨が降り、止む必要があり。よりよい収穫を迎えるためには詳しい降水量を週単位で知らなくてはなりません。

ニュースなどで見かける天気予報でも1週間後の降水確率を知ることはできますが、一般的に言われる降水確率は1㎜以上のことを指しており、1㎜ならばできる農作業も多くあります。私がSNSでアンケートを行った結果、農作業をやめる降水確率は70%が最も多く、一般的な基準と大きく異なります。今行うべき作業が出来るかどうかを判断する値を「しきい値」と呼ぶのですが、農業における降水確率のしきい値を把握しやすくするのがAgriCというプロダクトの目的です。

ー作業の段階によって雨の有無だけでなく降水量も関係してくるのですね。既にAgriCには、週単位で降水確率を把握することのできる機能はあるのでしょうか?

現在はまだ実装していません。最大11日後まで予報を出すことが出来る気象庁の数値モデルがあるのですが、これを活用して必要な数値を提供していく予定です。

ープラットフォームで1週間の詳しい降水確率を確認できる日が楽しみです。この機能も含め、これからのプロダクトの方向性をお聞きしたいです。

気象情報の種類は ①作付け前に利用する過去の情報②栽培途中に利用する過去の情報③栽培途中に利用する未来の情報④次期以降に利用する未来の情報 の4種類に分けられます。現在はプラットフォームで提供している気象情報は、①作付け前に利用する過去の情報 に当たります。また、センサーやドローン、衛星などを使って②過去の栽培途中の情報を把握することが出来る機能も開発中です。③や④の未来の予測に関する情報の提供も行っていきたいです。

また、現在のプロダクトとは違うものなのですが、数値化した天気をカードの能力値に変換したカードゲームや、数値化した天気を色に置き換え、農作物の味を表現することに使えそうだなと考えたりしています。

ーカードゲームは面白いですね!味を色で表現するのも、言葉で表現するよりも直感的で分かり易そうだなと感じました。プロダクトを含め、事業全体としてはどのような方向に向かって行くのでしょうか?

生産現場だけでなく、流通の方も行う予定です。加工業者・流通業者には生産現場の情報を元に入荷日や入荷量、品質情報を提供する加工スケジューリングAI、小売業・消費者には品質の情報を提供し消費者向けのPRへの利用や付加価値の向上に繋げる食味予測AIの開発を考えています。

事業の拡大に伴ってマーケティングやプロダクトのUIの改善も行っていきたいですね。農産物と言っても種類が多いのではないか、とよく聞かれるのですがその通りで、それぞれに適した気象条件があります。まずは市場の大きなお米から着手し、味にこだわりのある農家の方々が愛用するツールとして、成長していきたいです。

ー生産から消費者に届くまで二人三脚のツールになりそうですね。静岡市アクセラレーションプログラムについてもご質問させてください、本プログラムに応募したきっかけはどのようなものだったのでしょうか?

以前JAのアクセラレーションプログラムに応募したことがあり、このプログラムの運営の方に、静岡市アクセラレーションプログラムを紹介いただきました。私自身静岡出身だったので、あまり迷わずに応募を決めました。

ーそうだったんですね。プログラムに対してどのような期待がありましたか?

このようなプログラムへの参加経験が少ないので未知数でした。私は普段北九州にいるのですが、実際のプロダクトのユーザーは東日本の方が多いので、ユーザーが多い地域に行く期待はありました。特定の小売りに対するヒアリングを行えたことが大きな収穫です。

また、事業計画を聞いてもらう機会も今までは無かったので、メンタリングを通じて今後すべきこととその順序を把握することが出来ました。静岡ということで今回は農産物をお茶に絞ってお話しさせていただいたのですが、内容をより具体化することが出来ましたね。

ー様々な視点で事業を見ることが出来たのですね。ビジネスに関する知識を得ることが出来たとのことですが、その他にもプログラムの参加前後で変化はありましたか?

今回のプログラムに参加したことで、ビジネスがスタートラインに立ったように思います。様々な意見を一度に聞くことが出来るので、参加して良かったです。また、静岡市から新たな関係先を紹介していただきました。

その他にも、プログラムで出会った静岡市の農業政策課と共に、有機栽培のお茶に関するデータの取得を行う予定です。農業界という、保守的で新規参入が難しい業界に入ることが出来たので、役所のような地方自治体との連携も進め、業界を少しずつ変えていきたいです。

ー自治体と連携することで、地域一帯で農業の環境に変化を起こすことが出来そうですよね。自然災害の多い日本だからこそ、気象とうまく付き合っていくツールの存在が重要であるように感じました。今回のインタビューはここまでとなります。ありがとうございました。

いかがでしたでしょうか?自身がその時に関心のあることに対する知識を付けることで、意図せずとも活かせる機会が来ることを、齋藤さんのこれまでの人生が表しているように見え印象的でした。また、農業従事者が減少する中で、「職人の勘」のような目に見えないものを定量的に表すことのできるツールは業界の衰退の速度を緩めることに繋がるのではないでしょうか?農業は生活に直接結びついている分、変化を実感しやすいと思います。農業界の変化が私たちの生活に与える変化の大きさを、改めて認識することが出来たインタビューでした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

[会社概要]
【会社名】合同会社ノーエン
【URL】https://noh-en.com/
【設立年月】2021年11月
【代表者】齋藤典之
【所在地】〒808-0135
    福岡県北九州市若松区ひびきの1-8
    北九州学術研究都市 事業化支援センター
(執筆:金野


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