「植物の顔色を伺う」農業の新しいスタンダードを広める株式会社Happy Quality代表が事業にかける想いとは?
2023年3月、アグリテックで農業を支援する株式会社Happy Qualityが、研究開発の加速と更なる事業拡大に向けて4億5,000万円の資金調達を実施しました。
そこで、資金調達を実現した株式会社Happy Qualityの代表取締役 宮地 誠さんに事業立ち上げのきっかけや事業にかける想い・今後の展望についてインタビューをさせていただきました。今回はインタビューの前編をお送りします!
後編はこちら!
https://startuplog.com/n/na2cdfc5bc11e
株式会社Happy Qualityについて、事業内容はこちら!
https://expact.jp/happy_quality/
ー本日はよろしくお願いします!宮地さんには3年前にも一度、事業内容についてインタビューさせていただきましたね。改めまして、今回は、資金調達おめでとうございます。
ありがとうございます!
ー今回は、事業にかける想いや現在の事業内容について、より深くお聞きしていきたいと思います。
ー宮地さんは、元々青果市場で競り人をされていたんですよね?そこで農業の課題を感じて起業されたとのことですが、「いつか起業したい」という想いは最初からあったのでしょうか?
実は元々、私は起業家的な性格なんです。起業ありきで子供時代から過ごしてきました。言い換えると、「お金持ちになりたかった」というところですね(笑)
子供ながらに、お金持ち=社長のようなイメージがありました。だから、サラリーマンではあり続けたくないと勝手に思っていて。15歳の頃など少しやんちゃな時期もあったのですが、そんな時代から毎日経済新聞を見ている、ちょっと変わった学生時代でした。
ー経営には元々興味があったんですね。では、経営者や社長になりたいと思われた時に、市場で働き始めたきっかけは何だったのでしょうか。
学生時代に陸上をやっており、大学もスポーツ推薦で入学が決まっていました。でも、入学直前の2月に大けがをしてしまい、そこで選手生命が終わったんです。当時の監督からは、「マネージャーをやってくれ」と言われましたが、辞退して結局私は入学した大学に一度も足を踏み入れることはありませんでした。
半年間寝たきりだった時に、お見舞いに来た友達が車のレースの漫画をくれました。それに感化されて、レーサーになりたくなっちゃったんです。まず、レーサーになるにはお金を稼がないといけない。お金を稼げる職種ってなんだろう?と考えていたところで、父親に「だったら地元に戻ってこい」って言われたんです。
地元に戻って市場で働けば、朝早いが昼に仕事が終わります。その後、アルバイトをすることも自分で勉強することもできる。そこで、市場に入ったというすごく単純な話なんです。また、ゆくゆくは「数字が動く世界」を作りたかったので、証券マンになりたいと思っていました。とにかく数字が動く世界という点では、市場も同じだなという感覚でしたね。
そんな経緯で19歳の途中から市場に入って、そこで農業の課題を目の当たりにしました。農業の在り方や本質を変えたいと考え、起業するために40歳の4月30日に退職しました。
ー原点には、「数字が動く世界」があったんですね。次に、市場で感じて起業するに至った農業の課題とそこに対してどう取り組んでいるかを教えて頂けますか?
大きく二つの課題があると感じています。「匠の技術がうまく伝承されないこと」、「農業で安定した稼ぎを得るのが難しいこと」です。
まず、匠の技術。いわゆる経験や勘というものです。これってすごいものなんですけど技術を伝えるのが難しいので、再現性が低いんですね。「何となく見た目で分かるでしょ」とか「何となく植物がしおれているでしょ」という肌感覚なんです。伝えることが難しいからこそ、農家の匠の技術がどんどん失われていってしまいます。
もう一つが、中々お金にならないので農業の担い手が減ってきている点です。天候に左右されながら、大変な思いをして作ってもじゃがいも一つで10円の利益にしかならないことが多いです。さらに、価格決定権が農家さんにはありません。市場や卸売業者が価格を決めてしまうので、当たるか当たらないか分からない宝くじを買ってるようなものなんです。
このような課題を解決するために、Happy Qualityではデータドリブン農業を実践しています。具体的には、気温や湿度、日射などのデータを全部取って、ロジカルに判断できる栽培方法を確立しています。そのおかげで、栽培や水やりの再現性や植物の仕組みが分かってきました。まさに、「誰でもできる農業」を目指しています。
だからこそ、次の世代に伝えたり、AIを活用して再現性の高い栽培ができるようになることで、安定的な稼ぎが得られるようになります。
ー若い方だったり新しく学び始めた方が農業を気軽に始められるようになるんですね。これまで高い技術を経験やノウハウとして身につけてきた農家さんの反発などはありませんでしたか?
結論、全くないわけではないと思います。ただ、私は全部の農家さんを救えるとは考えていなくて。ここが本質で、私はどこまでいっても卸業者や八百屋など「商人」の目線なんです。農家さんの立場で事業をやっているのではなく、商人からの目線で、農家さんが減ると何が困るかということを考えています。
農家さんが減ったときに、八百屋さんは何で困ると思いますか?
売るものがなくなる、つまり仕入れ先がなくなります。だから、私たちは農家さんが減ると困るんです。例えどんなに優れたサービスやデバイスを開発しても、農家さんがクライアントなので、農家さんがいなくなるとうちの会社の存在自体がなくなるのと同じです。だからこそ、今どんどん減ってしまっている農家さんを増やしたいと考えています。
若手の皆さんや企業の農業事業部さんなど、勢いのある全く違う世界の人たちが農業界に参入すると、どんどん活性化していきます。そのために、伝える技術や安定した稼ぎを産みだすための技術開発をして、広めていこうというのがHappy Qualityの事業です。
ー農業に興味を持った人が気軽に始められるということを目指しているんですね。では、具体的に現在注力している事業について教えて頂けますか?
「Happy Qualityが農業の新しい基準を作り、それをグローバルスタンダードにする」ことを目指しています。その基準作りのために、今「植物の顔色を伺う」というキーワードがあります。
今後、お医者さんの問診のようなものが植物でできたらいいんじゃないかと考えていまして。そこでドラえもんの「ほんやくコンニャク」のようなプロダクトを作ろうと思っています。「ほんやくコンニャク」って、理解できない言語でも日本語で分かるようになるというものなんですね。普通、植物に「おはよう」って言っても返してくれませんが、それが返ってきたらめっちゃいいですよね(笑)
「植物の今の機嫌や体調、欲しいものを直接聞けたら」って考えるとワクワクしませんか?
一見馬鹿げた話かもしれませんが、「世界の農業界のドラえもんになれたらいいよね」というところで、今いろんなデバイスの開発を行っているという感じです。
ーどんなデバイスを開発しているんでしょうか?
近赤外のセンサー選果機を共同開発して、私たちが作るトマトの糖度とリコピンの量を全量測っています。糖度だけではなく、リコピンの数値まで測ってエビデンスを残しているのは現状HappyQualityだけなんです。
私たちは、Happy Quality独自の基準として「トマトの年間平均糖度8度以上で一年中出荷できる」ということを定めています。その基準を満たすために開発を行っていて、それに加えてリコピンとギャバ(GABA)という二つの成分で機能性表示を取得しています。
背景には、先ほどの「技能伝承が難しい」という話があります。例えば、匠の農家さんが長年の経験と勘で美味しいトマトを作ったとします。それ、食べたら美味しいんですけど、消費者が買う時にパッケージからは、明確に品質の違いが分からないんですね。「本当に美味しいものを買ってもらう」という基準にするために、私たちは糖度やリコピンの数値を見える化しました。
そのため、Happy Qualityは商品パッケージに糖度値を表示しています。他の業者さんは糖度を測ってはいても、表示することは少ないんですね。農家さんが頑張って作ったものを「これはいいものですよ」って全量検査して、一目で分かるようにしています。
まとめると、これがHappyQualityのスタンダードであり、その基準を1人でも多くの農家さんが満たせたら安定して農作物が売れるようになりますよね。そのために、データを用いて植物の状態が分かる、ドラえもんの「ほんやくコンニャク」のようなものを開発しています。
ー作った農作物の品質が保証されることで、農業参入へのハードルを低くすることができるんですね。後編では、資金調達によって強化する「デジタルファーム」の開発についてと、Happy Qualityが求める人材についてお話を伺っていきます。本日は、ありがとうございました!
Happy Quality代表・宮地さんのインタビュー動画はこちら!
[会社概要]
【会社名】株式会社 Happy Quality
【URL】https://happy-quality.jp/
【設立年月】2015年
【代表者】代表取締役社長 宮地 誠
【所在地】〒437-0061 静岡県袋井市久能1887
取材・執筆担当:EXPACTライター 森田