【VCインタビュー】東大IPC発!国内最大規模を誇る13大学横断の起業支援プログラム「1stRound」とは?
今回は、カリフォルニア大学バークレー校出身、大手コンサルにてスタートアップ支援等を行った経歴と自身の起業経験の双方を併せ持ち、現在は東大IPCにて「1stRound」のディレクターを担当されている長坂英樹さんにお話を伺いました。
スタートアップログでは、全4回にわたり東大IPCの各担当者様への取材記事をご紹介していきます。
こちらの記事では、2017年にスタートした東大IPCの起業支援プログラム「1stRound」について、長坂さんの熱い想いと共にご紹介します!
ー長坂さん、本日はよろしくお願いいたします!
よろしくお願いいたします。
ーはじめに、東大IPCの起業支援プログラム 「1stRound」の概要について教えてください。
「1stRound」は、大学横断・共催型の起業支援プログラムです。
先日、プレスリリースでも発表しました通り、国内8大学共催のプログラムに今回新たに国立大学法人九州大学、学校法人慶應義塾、学校法人立命館、学校法人早稲田大学が参画することに合意しました。これにより、「1stRound」は13大学共催、国内最大規模を誇る起業支援プログラムとなっています。
ー大学横断で運営しているプログラムなのですね、共催大学も増えたことでますます注目が高まる「1stRound」ですが、どのような目的で立ち上げられたのでしょうか?
グローバルレベルで卓越した技術を持ちながらも埋もれてしまっている研究内容を、世界で勝てるスタートアップに押し上げていく仕組みを構築するために、起業する上での課題解決をサポートするプログラムを発足させたのが、今の「1stRound」の始まりです。
国内の大学の多くは、世界でもトップレベルの基礎技術を持っていますが、この世界で勝てる技術が社会に実装されずに「技術」で止まってしまっていて、実際に事業や商品として人の手に届くところにまで進めることができていない状況だと私は思っています。
そういった日本の現状に対して、研究内容を最適な形で社会に実装していきたいと思っている方々に対し、一つの解として、スタートアップ企業化や技術を活用する起業家に特化した支援が必要だと考え、それを仕組み化したものとして「1stRound」を設立しました。
ーなるほど、国内の大学で生まれた基礎技術は世界でもトップレベルのものがあるにも関わらず、ビジネス化するまでの仕組みが不足しているといった背景があったのですね!「1stRound」ならではの特徴や強みなどはありますか?
まずは、支援先として採択された企業に、ノンエクイティで上限1,000万円の支援金を差し上げています。一般的に、アクセラレーションプログラムや起業支援プログラム等で金銭的・実務的支援を行う場合は営利目的であることが多く、支援する一方で株式などのリターンを受け取る場合が大半です。
しかし、私たちのプログラムでは起業家から一切の株式、及び金銭リターンを受け取らないようにしており、これが大きな特徴の一つだと思います。技術のビジネス化には時間がかかり、売上の立たない状況でも辛抱強く活動を続ける必要があります。その活動を継続するためには資金調達が必須ですが、いかに技術が良くても、しっかりと事業価値として落とし込まれていないチームは、いくら調達を行ってもVCから正当なバリュエーションで評価をされず、結果としてその後の成長を阻害するリスクがあるからです。
次に、支援先となる企業の最終決定は、運営側である我々東大IPCではなく、マーケットサイドである、他VCと大手企業に審査・判断を完全に委ねています。これは、最終的には大学に関係なく、事業内容・研究内容・支援タイミングを見て、良い順に支援先を決定するためです。そのために、プログラム卒業後に調達元となり得る外部VC、またスタートアップ企業のサービスを活用していく側となり得る大手企業の方々に審査会にお越しいただき、審査・判断していただいています。そのようなプロセスを経て決定された支援先企業に、我々は責任を持って6ヶ月間のハンズオン支援を行います。
最後に、他の起業支援プログラムと異なる部分は、顧問やアドバイザーとして、事業内容と関連分野の教員や研究者を紹介できる点ですね!これは我々のプログラムが、アカデミア共催型だからこそできるサポートだと思っています。
ーノンエクイティで1,000万円の支援金には驚きました。また、審査を外部に委ねることで、本当に時代のニーズにマッチした採択先が決定されるのですね!支援に対してリターンを求めないということですが、どうして営利目的ではなくこのようなプログラムの運営が可能なのでしょうか?
東大IPCは東京大学の子会社でありかつ官民ファンドとして社会的価値を生み出すというミッションがあります。こうした公的な立ち位置だからこそ、1,000万円の支援金を含めた「ベンチャーファースト」「アントレプレナーファースト」での手厚い起業支援を行う決断ができたのです。
ー官民ファンドであるからこそ、ベンチャーファーストなサポートが可能なのですね。長坂さんご自身はどのような思いで「1stRound 」のプログラムを運営されていますか?
私自身、今まで4つの視点からベンチャーを見てきました。
まず私自身がUCバークレーで大学生活を送る中で、シリコンバレーの中心的な大学はどのように大学技術を社会に出していくのか、スタートアップ化していくのかを学んできた視点。その後、コンサルティング会社に入社し、企業が成長するための戦略を練りながら、大企業がどのようにスタートアップと協業するのかを学んできた視点。3つ目に、私自身がディープテックのベンチャーを立ち上げ、実際に資金調達を実施した、起業家としての経験からの視点。そして、最後に、現在はVCサイドからスタートアップに対してどのようなに投資の判断を行うのか学んできた視点です。
最近よく耳にします「スタートアップ企業を支援します」という文言を、4つの視点からスタートアップの成長を見てきた経験を踏まえ、支援のあるべき姿を常に追い求めながら具体的な取り組みとして行っています。また、自分自身が実際に起業家として資金調達を実施してきたからこそ、原体験を通して、当時あったらよかったなと思うプログラムをできる限り体現しているつもりです。
ー4つの視点をもつ長坂さんだからこそ今の「1stRound」の形が生み出されているのだと感じました。「1stRound」のこれまでの実績についてもお聞かせください。
これまで約68社の企業を採択してきました。最近ですと、第8回「1stRound」に採択した8社のうち支援期間の6ヶ月の間に、大手企業と協業した割合は、8社中8社と100%を達成しました。
誕生したばかりの企業が、6ヶ月という短い期間の中で大手企業と協業できることは極めて稀です。しかし、アカデミアのベンチャーはコアとなる研究に膨大な時間をかけており、技術としての信頼度が非常に高いという点は大学発のベンチャーならではの特徴です。
また、採択事業の資金調達成功率が高いことも「1stRound」の実績と言えます。
基本的にシードベンチャー、特にディープテックは資金調達を成功させるのが難しいのが現状です。
しかし、「1stRound」では支援後1年未満での資金調達率が90%を超える非常に高い調達成功率を記録しています。
ー資金調達の成功実績や大手企業との協業率を見ると、興味を持つベンチャーや強い想いをもって参加する起業家たちも多そうです。やはり、プログラムへの関心の高まりやエントリー数なども拡大しているのでしょうか?
2017年にこのプログラムが始まって約8年が経ち、応募数は年々増加しています。
応募数が増えると、採択されるためのハードルが高くなっていると思われがちですが、「1stRound」では、採択されるか落ちるかではなく、たとえ審査に落ちてしまったとしても、その先のフォローも実施しています。
応募企業と面談をしながら、コーポレートパートナーさんをお繋ぎしたり、繋いだその先で投資が決定したりと、落ちてしまったとしても、チャンスをお渡しできるように支援しています。起業するという決断をし、相当な時間と手間をかけた準備を経て応募くださった中で、起業家のみなさんの手間と時間、そして想いを決して無駄にしてはならないという思いでやっています。
ーそのような背景を知ると参加企業側も採択されることだけがゴールではないように感じます!あらためて、とても魅力的なプログラムですよね。そんな「1stRound」の今後についてもお聞かせください。
「1stRound」は、国立・私立横断型、国内最大規模を誇る13大学共催のプログラムです。
北海道から九州まで展開することが可能な新体制で、事業連携や投資検討のみではなく採択企業とパートナー企業の交流強化をより密に行う仕組み構築を手掛けたり、さらに多方向から支援できる仕組みを構築したり等、プログラム支援の「質」の強化を考えています。
ー新体制の「1stRound」から今後、世界に羽ばたく起業家やスタートアップが輩出される日も遠くないですね!毎年2回開催されている「1stRound」ですが、チャレンジしてみたい場合にはどのように進めればよいのでしょうか?
こちらの「1stRound」サイトページからも、開催スケジュールやプログラム詳細を確認していただくことができます。
基本的には、サイトから応募をいただき書類審査を通過すると一次審査へ進みます。一次審査を通過すると最終審査を経て結果発表となります。
次回の開催は第9回、2023年4月10日より公募開始しています。
これまでの全8回の実績もこちらに公表していますので、ぜひ一度ご参照ください。
ーまずは、エントリーにチャレンジしてみることが、大きな一歩になるかもしれませんね!最後に、日本のベンチャーやスタートアップに対して長坂さんからメッセージをお願いします。
日本には世界を変えるような素晴らしい技術が、まだたくさん埋まっていると思います。必ずしもそのすべてを事業化する必要はありませんが、そのような技術を活用して一気に事業を成長させていくアカデミア系スタートアップを経営したい方々がいらっしゃれば、ぜひ一緒に日本、ひいては世界へと挑戦させていただきたいです。
日本の大学系スタートアップは世界でも勝てるレベルと私は信じています。実際に「1stRound」でも国際的に認められる採択チーム例が創出されてきました。”できるけどやらない”、”事業化の経験がないことでの不安や恐怖で、実力を発揮できていない”等の課題解決。成長を最短・最大化し、事業化への最速の一歩目を踏んでいただくための実務的な支援。これらを含め様々なニーズに向けてぜひ活用いただければ幸いです。株式をとらない独立的な立場から、皆様の成長を目的に我々は活動してまいります。
今回、ご紹介した「1stRound」は支援の一助ですが、様々なサポートを有効に活用していただくことで、日本から世界で勝てるベンチャーを誕生させたいと心の底から思っています。
ー多角的な視点を持つ長坂さんがどこまでも日本の技術力を信じて、ベンチャーファーストで寄り添う「1stRound」は今後も進化し続けていくのだと感じました。次回の開催も楽しみです!
長坂さん、本日はありがとうございました。
[会社概要]
【会社名】東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)
【URL】https://www.utokyo-ipc.co.jp/
【設立年月】2016年1月
【代表者】代表取締役社長 植田浩輔
【所在地】東京都文京区本郷7-3-1 東京大学南研究棟アントレプレナーラボ261