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東大のイノベーションエコシステム創出を目指す「東大IPC」とは?

今回は、民間VCでベンチャー投資・支援を手がけで現在は、東大IPCにてマネージャー(投資担当)を務める川島奈子さんにインタビューをさせていただきました。

東大IPCにてマネージャー(投資担当)を務める川島奈子さん

スタートアップログでは、全4回にわたり東大IPCの各担当者様への取材記事をご紹介していきます。

こちらの記事では、東大IPCの設立背景から現在に至るまで、そして展開されている起業支援事業の概要や内容、今後の展望などについて、川島さんのご視点とともに迫ってまいります!

ー川島さん、本日はよろしくお願いします!
よろしくお願いします。

ーはじめに、“東大IPC”の設立から現在に至るまでを教えてください。
東京大学は2004年に国から独立する形で国立大学法人化し、ベンチャーエコシステムを活性化していこうという取り組みを強めてきました。そして、国として大学発ベンチャーをアクセラレートしていき、日本全体の底上げを図ろうという機運の高まりと共に、文部省や経産省の主導で、大学出資事業という官民イノベーションプログラムが2013年に開始され、2016年12月に東大IPCが設立されました。

ちなみに英語での正式名称は「UTokyo Innovation Platform Company」で、頭文字を取って東大IPCとなっています。

ースタートアップ支援と学術機関は結びつきづらい印象がありますが、政府が大学出資事業というプログラムを開始した背景とはどのようなものでしょうか?
30年前の世界時価総額ランキングではトップ50の半数以上を日本企業が占めていたにも関わらず2023年においては0社という現状があります。一方で、海外では、成長を続ける有力スタートアップの半数近くを大学系が占めているという印象ですね。

そういった背景から、日本でも大学系スタートアップを作っていこうという機運が高まりました。ただ、当時の日本には大学に近い立場から資金投資ができる組織がほぼ無かったため、その課題に応じた官民ファンドを作ろうという取り組みのもと、東大IPCを含む四国立大学に大学VCが設立されました。

引用:東大IPC【https://www.utokyo-ipc.co.jp/

ー先進技術の研究が進んでいる日本で有力なスタートアップが生まれづらい背景には、そのような理由もあったのですね。では東大IPCが、展開している事業内容について教えてください。
まず、「協創1号ファンド」「AOI1号ファンド」という2つのファンドを運用し、スタートアップへの投資を展開しています。

スタートアップへの投資だけでなく、起業支援プログラムとして、「1stRound」を運営しています。ベンチャーキャピタルから外部調達をする前のチームあるいは設立3年以内のスタートアップを対象にして、当社からの出資金及びパートナー企業からの協賛金をベースにノンエクイティ資金、6か月のハンズオン支援を通じて大学関連スタートアップを「社会で勝てる」 スタートアップへと育てていくことを目指しています。

また、ハンズオン支援の一環として「DEEPTECH DIVE」というスタートアップ向けの人材マッチングプラットフォームも運営もしています。

※これら各事業に関しては、次回以降の記事でさらに具体的にご紹介してい
きます。

ーあらゆるサポート事業を展開されており、有力なスタートアップが生まれる可能性を感じますね!東大IPCならではの強みとは、どのようなところにあるのでしょうか?
やはり東大の100%子会社であるというところで、大学との連携が密というのが一番のポイントですね。

東大側では、起業家講座というものを定期的に開催しているのですが、そこと連携して大学関連スタートアップの支援育成が可能です。

また、東大IPCは、目的の違う2つのファンドを並行して運用しているのとともに起業支援プログラムも展開しており、プレシード、シード、アーリー、ミドル、レイターとあらゆるステージを対象としています。そのため、ステージやセクターに比較的制限なく、幅広い支援・投資というところができるようになっています。

このように、大学関連スタートアップを網羅的に支援や投資することができる点も特徴かもしれませんね。

ー東大との連携という強みを発揮できる領域としては、やはりディープテックのような専門性の高い分野なのでしょうか?
そうですね。やはり専門的な分野に精通している点が、東大IPCならではの強みとも言えます。

民間のVCが専門性の伴うディープテックに積極的に投資をするというのは、困難な面が様々あるのが現状です。

通常、民間のVCファンドの運用期間は10年ということが多いです。ソフトウェア開発などを行う、比較的足の速い他ベンチャーさんであれば十分な期間といえますが、成果が出るまでに時間のかかることが多いディープテック系ベンチャーに長く腰を据えて支援を行おうとするには期間の制約が出てしまいがちです。こうした事態も見据え、弊社のファンドは2つとも15年の運用期間を満期としています。この15年という期間であれば、余裕をもった支援が可能であると考えています。

ー民間VCで経験なされた、川島さんならではのご意見ですね。では、そんな東大IPCでは、事業支援展開を行う上で現在、課題であると感じていることはありますか?
大きく分けて2つあると考えていますね。
1つ目は、ディープテック系のベンチャーに対しての支援環境が不足しているという点です。

実は、ディープテックという分野は他分野のスタートアップなどと比較してみると、研究者自身が技術を社会実装したいという想いをもって取り組まれることがきっかけになることも多いように思います。
そのため、いざ起業をしたい!と思った時には、そこに至るまでの必要なモノや人などの情報に他者と格差が生まれている現実があります。

ただ、このような課題に対して、弊社の展開する支援プログラム「1stRound」は、大きく活用いただけると考えています。不安や問題を抱える起業の初期段階から共に伴走していくプログラムとなっているため、立ち上げ間もない状況にある方、もしくはこれから新たに事業を立ち上げたいというディープテックベンチャーにもご助力が可能なのです。

2つ目の課題は、人材の不足ということです。
これは業界全体としても言えることかもしれませんが、やはりまだまだベンチャーのエコシステムの中に入ってくださる人は多くは無いように感じますね。

運用する人材マッチングプラットフォーム「DEEPTECH DIVE」は、個人の会員である経営者志望やCxO志望、エンジニア、学生などが登録しており、クローズドな環境の中でベンチャーや研究者などの企業会員と相互交流を図ることが可能です。今後も、必要とする方々に利用いただく機会が増えると、解決に近づくことができると考えています。

提供:東大IPC

ーなるほどそのような現状に関して、直接的なサポートになる事業展開でもあるのですね!それでは、東大IPCの支援等の事業を通じて社会の変革などを実感することはありますか?
これは東大側の起業教育や東大周辺に集う他のVCの方々も含めての成果ではありますが、2009年100社強ぐらいだった東大関連ベンチャーが、2019年には400社と4倍になっています。

現在、東大は国内最大級の大学関連ベンチャーを輩出する大学となりました。さらに、その中で20社以上が上場しており、企業価値合計1.5兆円を超えています。こういった動きをみると東大IPCとしても、社会への貢献といった意味では一定程度寄与が出来ていると考えています。

提供:東大IPC

ー数値でみると圧倒されますね!東大は、大学発スタートアップの業界を牽引し続けているだと改めて感じました。「東大IPC」という企業名に関してですが、やはり出資先は東大関連の企業や起業家になるのでしょうか?
よくそのような質問を受けることがありますね(笑)

実は、はじめから東大と接点を持っていなければならないということではないのです。例えば、これから東大の研究成果などに関連する事業をはじめたいという企業にも出資が可能です。ちなみに、起業家の方に関しても、東大卒であるという必要はありません。

東大IPCとして、スタートアップへ出資や支援をし、その企業が東大と連携するようになることで、東大周辺でのイノベーションエコシステムの拡大に貢献することができると考えています。

ー東大に関連する事業で起業を考えている方にも、サポートいただけるチャンスがあるのですね!では、東大IPCが事業への出資の際に重視しているポイントや判断基準についてもお聞かせ下さい。
基本姿勢として大事にしたいところという意味では、東大関連のベンチャーキャピタルであり、ファンド満期も15年という特異的な立て付けである点を踏まえると、やはりグローバルにインパクトの大きいディープテックのスタートアップを中心に出資していきたいですね。

一方で、ソフトウェアやサービス系に出資しないというわけではなく、 東大のベンチャーエコシステムを拡大していくという意味において、意義のある投資であれば、出資をしたいなと考えていますよ。

ーディープテックが中心とはいえ、意義を重視した上で、幅広いジャンルに注目されているとも言えますね!では最後に、東大IPCとして今後の展開についても教えてください。
引き続き、弊社のミッションである東大のイノベーションエコシステム拡大というところを軸足にしつつ、ディープテックへの長期継続投資も継続して行っていきたいですね。

また、日本で生まれたスタートアップが、グローバル企業になっていく姿は、日本全体としてもまだまだ例が少ないように感じています。その実現のためにも、サポート事業をもっと拡大、展開していけたらという風に、会社全体でも考えています。

出資するというところはもちろんですが、それ以外の事業である「1stRound」や「DEEPTECH DIVE」といったところも含めてエコシステムを構築していき、スタートアップや起業家によりアクセスしやすい環境を作っていくというところを目指していきたいですね。

ー東大IPCの取り組む事業や思い描くビジョンは、日本経済の活性化にも寄与していると感じました!川島さん、本日はありがとうございました。

[会社概要]
【会社名】東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)
【URL】https://www.utokyo-ipc.co.jp/
【設立年月】2016年1月
【代表者】代表取締役社長 植田浩輔
【所在地】東京都文京区本郷7-3-1 東京大学南研究棟アントレプレナーラボ261


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