【まきチャレ2023開催記念インタビュー| S.Lab】ウクライナ発、環境に優しい植物由来素材のパッケージ製造技術で日本展開をめざす
2022年静岡県牧之原市は、地域資源を産業や観光に活用するための革新的なビジネスアイデアを募集する場として、「牧之原市チャレンジビジネスコンテスト(以下まきチャレ)」を初めて開催しました。
初年度は海外10社を含む90社以上の応募があり、第1回のまきチャレ大賞は、ウクライナのスタートアップ企業「S.Lab」が受賞しました。S.Labは、発泡プラスチックに完全に取って代わる、環境に優しい2つの植物由来の成分のみを使用したパッケージを製造しています。
この記事では、S.LabのCEO兼共同設立者であるジュリア・ビアレツカ氏に、同社が提供するサービスについて、植物由来のパッケージがどのように環境問題に貢献するかについて、そして今後の日本市場への展開について、インタビューを行いました。
ー本日はお時間を頂きありがとうございます。まず初めに、S.Labの事業内容や日本展開を考えるきっかけについて教えてください。
私たちは、ポリスチレンやスチロールフォームなどの発泡プラスチックの天然代替品を製造しています。これは通常、電子機器などの壊れやすい商品を注文した際に見られる白くてふわふわしたプラスチックで、包装物を破損から守るためのクッション材として使用されます。これらの製品は、農業廃棄物と菌糸体のみを使用した100%天然の代替品です。菌糸体とは、キノコの根の網のようなもので、農業廃棄物をまるで接着剤のようにしっかりと固定します。これによって、私たちの素材はポリスチレンやスチロールフォームと同等の強度と信頼性を持ち、効果的な代替品として機能します。また、耐久性、強度、防水性、断熱性といったポリスチレンの特徴を全て備えています。 当社のパッケージは廃棄物が出ない仕様で、使用後に2つに割って土に埋めるだけで、30日以内に痕跡もなく完全に分解されます。現在、独自の特許技術を開発中で、これによって天然のパッケージを産業規模で製造することが可能になります。
製品を日本市場に展開させたいと思ったきっかけは、日本がポリスチレンやその他のプラスチックの最大の使用国のひとつであるという事実を考えたことが始まりです。経団連(日本経済団体連合会)の2022年版白書では、パッケージの効果的な利用が資源循環型社会の構築に向けた主要な取り組みの一つとして挙げられています。
特に牧之原市では、放置された茶木が多くあります。これらの茶木は通常、毎年40cm切り落とされ、広範囲に渡って広がっているため、常に膨大な数の放置された木々が発生します。このような廃棄物をどのように処理すべきか、日本人は対処方法を知らないことにチャンスを見出しました。なぜなら、私たちの技術を利用することで、市はこれらの放置された木を利用し、持続可能なパッケージを製造して日本市場に再販することができるからです。これはすべての関係者に利益をもたらすもので、プラスチック廃棄物の削減に貢献することに加え、日本に環境に優しい材料の導入を促進することができます。
ー日本人でありながら、日本がポリスチレンなどの最大使用国のひとつであることを知りませんでした。展開が実現するとこの事実についても、さらに多くの人が考えるきっかけとなるかもしれないですよね。では、どのような製品へのパッケージ資材を提供していますか?具体的な使用例を教えてください。
日本には素晴らしい美容と電子機器の市場があり、そこが主なターゲット市場です。私たちは、電子機器、高級品、化粧品、壊れやすいまたはかさばる家庭用装飾品のための持続可能で信頼性の高いパッケージを製造することができます。
もうひとつの用途は食品包装です。植物の茎と菌糸体という2つの植物由来の原料だけで作られています。日本では、特に魚や肉などの生鮮食品に多くの断熱ボックスが使用されており、私たちのパッケージは完全な天然素材であるため、安全で環境に優しいものになっています。
これらは具体例であり、特定の製品のみに限定されるものではなく、美容製品の緩衝材、電子機器、デバイス、装飾品など、包装を必要とするあらゆるものに使用することができます。これらの多用途性が、さまざまな市場ニーズに対応できる強みとなっています。
ー考えてみると、ECサイトでの購入品など日常のあらゆる場面で資材による梱包が存在しているなと感じました。現在のところ、日本市場で特に需要の高い市場はどこでしょうか?
主に化粧品、美容、セルフケア、電子機器、飲料などを想定しています。。例えば、牧之原に美しいガラス瓶に入った緑茶飲料を製造している会社があります。私たちのパッケージは中身を保護する機能は維持されたまま、プラスチック製のものと比べても持続可能で高級感のある代替品となっています。
ー事業者側も利用を比較する際にも、環境への配慮がなされている点は、大事なポイントになる気がしますね。では、これまでの先行投資や今後の資金調達の見通しについて、お聞かせください。
昨年秋にプレシードとして最初の投資ラウンドを終了しました。投資家やビジネスエンジェル、VCが中心でしたが、希薄化しない助成金もいくつかありました。希薄化資金と非希薄化資金を合わせると、今日までに約80万ユーロ(約1億3,000万円)を調達したことになります。もちろん、現在も資金調達は継続中であり、次のシードラウンドは2025年第1四半期により多くの場所で事業を拡大する予定であることを考慮し、250万ユーロ(約4億1,000万円)を想定しています。
ースピード感を持って事業拡大していく様子が感じられます・・・!今後の日本での販売戦略についてどのように考えていますか?
現在、日本での会社設立を計画しており、会社登記に必要な手続きについて弁護士に相談しているところです。日本での販売戦略については、現在EUやその他の地域で行っている戦略と同じになると考えています。
潜在的な顧客や、まきチャレのおかげで得た人脈や企業さんから、温かいフィードバックをいただきました。今後は、潜在的な顧客にソリューションを提案してくれる日本の代理店ネットワークを構築していく予定です。また、私たちのソリューションを市場に紹介してくれる地元の貿易委員と協力することも目指しています。
私たちの製品を信頼してくれる牧之原市長と地元の起業家たちの助けによって、日本市場への展開が関係者全員にとって有益なものになることを期待しています。
ー日本展開におけるサポートや体制づくりもまきチャレによる繋がりが大きいように思いますね!特に日本での成長戦略について詳しく教えてください。
まず、製品や地域について、美容、電子機器、食品などの業界に焦点を当てたいと考えています。繰り返しになりますが、私たちが独自の技術を開発し、革新的なアイデアに多くの投資を行っている理由は、パッケージソリューションを、中小企業から大企業まで、あらゆるビジネスに手頃な価格で提供したいからです。
すでに、ミニ生産ラインのような拡張性の高いソリューションを開発していて、海上配送に使用される40フィート(約12m)コンテナの中に設置が可能なサイズの生産ラインを持っています。この生産ラインは完全に自動化されているため、顧客は片側から原材料を投入するだけで、もう一方からパッケージが出力されます。このようなミニ工場のネットワークを日本だけでなく世界中に作っていくつもりです。日本にはさまざまな場所に原材料の供給源があります。ある地域では木であり、別の地域では稲の茎かもしれません。このソリューションによって、パッケージを一ヶ所から別の場所へ運ぶ必要もなくなります。
ー場所を限らずに工場ネットワークを構築できることは、地方にとっても可能性を感じる気がします。マクロ経済や地政学的な動向についてどのように見ていますか?また、これらが会社の成長計画にどのように影響を与えていますか?特に、現在の世界的な資金調達環境を考慮して、S.Labが成長重視かそれとも利益重視の目標を追求するか、についても興味があります。
投資市場ではいわゆる「氷河期」が訪れたにもかかわらず、私たちにとってはまったく逆でした。当初の計画では50万ユーロ(約8,200万円)を調達する予定でしたが、実際には80万ユーロ(約1億3,000万円)を調達しました。これは私たちのニーズに対して予想以上の結果であり、満足しています。このことは、持続可能性、気候変動、グリーンテックがいかに投資家に期待されているかを示していると思いますし、また社会が単なる議論から、それらの産業への実際の投資にシフトしているという事実も示していると思います。昨今、消費者は日々の選択に対してより高い意識を持つようになり、企業にもサステナビリティへのシフトが求められています。人々は単にそのような話を聞くだけでなく、実際の行動を見たいと思っているでしょう。
EUでは2030年までに、すべての包装材をリサイクルまたは再利用可能なものにしなければならない、という規定があります。これは、パッケージ業界で生産されるポリスチレンをすべて排除する必要があることを意味しています。米国や日本を含むアジアも同様の措置を講じているため、企業はプラスチックからリサイクルされた、より持続可能な素材へのシフトが求められています。そのため、気候技術を扱うスタートアップに対する補助金が増えています。私たちはそのような補助金のいくつかに申請しており、もちろんできるだけ早く利益を出すことを目指しています。
〜牧之原市チャレンジビジネスコンテスト(まきチャレ)を終えて〜
ーでは、マキチャレについていくつか質問させてください。まず、日本でのピッチコンペティションに参加するのは今回が初めてですか?
日本でピッチコンテストに参加するのは初めてでした。私たちの主要市場であるEUでは、多くのチャレンジ、賞、アクセラレーターに参加しています。まきチャレ2022は、アジア市場では初めての経験でした。
ーなるほど。次に、牧之原チャレンジに参加した動機を教えてください。
まきチャレに参加した主な動機は3つあります。
まず第一に、私たちはアジア、特に日本市場に進出することに期待を抱いています。街と私たちの会社の両方に利益をもたらす有意義なプロジェクトを行いたいと思っていました。まきチャレは、地元に私たちのソリューションを紹介し、日本企業や潜在的なパートナーとの新たなつながりを作る絶好の機会でした。
第二に、私たちは牧之原市で放置された茶畑やフードロスの問題を調査し、この問題に取り組む必要性があると考えました。技術を活用することで、農業廃棄物をリサイクルパッケージに変えることができ、またそれを再利用し自然に戻すことが可能です。
最後に、パッケージ製品を利用する企業がたくさんあることを知り、日本市場に可能性を見出したからです。
ー今回のまきチャレ受賞が御社に与えた影響と、日本での成長プランに与えた影響についてお聞かせください。
まきチャレで受賞した賞金は、日本での事業開始のために投資しました。私たちにとって比較的新しい市場でソリューションを紹介し、製品について良いフィードバックを得ることができました。また、牧之原市やその周辺で活動する多くの起業家と有望なコネクションを作ることができ、日本での事業を開始した暁には、私たちのビジネスと協力し、投資する意欲を示してくれました。
〜S.Labのこれから〜
ーS.Labは販売、マーケティング、その他のビジネス機能に関して、潜在的なパートナーシップの機会を求めていますか?
現在、私たちは「サービスとしてのパッケージ製品」と「ミニ工場」という2つのビジネスモデルを持っています。どちらもパートナーのビジネスに簡単に導入できるものです。必要な数のパッケージ単位を生産して配送することもできますし、または企業に自動化されたミニ工場を提供することも可能です。私たちはこれらのモデルを日本市場に導入し、ミニ生産ラインの販売に適したパートナーを見つける努力を進めています。
ー静岡県が主要なターゲットになるのでしょうか、それとも他の地域になるのでしょうか?
まずは静岡県からスタートし、東京などの他の大都市に拡大する予定です。日本には資生堂、スズキ、ヤマハなどの大企業がいくつかあり、これらの企業も私たちの技術によって利益を得ることができる潜在的な顧客になり得ます。日本のいくつかの地域に焦点を当てると思いますが、静岡県は私たちのビジネスにおいて重要な役割を果たすでしょう。
ー日本の企業や潜在的な顧客からどのような評価やフィードバックを受けましたか?
今のところ、コンセプトを見た企業からは肯定的なフィードバックを受け取っています。しかし、それらの潜在的な顧客がすぐに私たちの製品を使用し始めるとは言えません。なぜなら、まずは発泡プラスチックの代替品に慣れ、それを自社のビジネスでどのように利用できるかを理解する必要があるからです。
ー最後の質問になりますが、静岡県内の茶木の廃棄物問題を解決するだけでなく、他にもより広域にビジネスを拡大することも将来的には検討しているのでしょうか?
私たちは市場を調査し、さまざまな業界における可能性を探っています。東京や大阪、その他の大きな地域の化粧品会社や電子機器会社など、農業廃棄物から作られた地元産のパッケージを利用することで利益を得られる潜在的な顧客はたくさんいます。なので、地域ごとに特化するのではなく、日本全体をターゲットにしています。
貴社がアジア市場で引き続き成功を収め、日本市場への参入戦略が大成功することを願っています。これらの製品やソリューションは、産業界における持続可能なパッケージの基盤となるでしょう。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
[会社概要]
【会社名】S.Lab
【URL】https://www.ilab-s.com/
【設立年月】2021
【代表者】Julia Bialetska
【住所】Malaga, Spain
取材:EXPACT Pramod Sharma
執筆:Pramod Sharma・Yahyo Kholmonov・北岡