【VCインタビュー】業界に新風を起こす提唱者。エンジェルラウンドの大越氏に直撃取材!(前編)
“The Choice of Entrepreneurship 〜起業家という選択をもっとあたりまえに〜”
新たなスタイルでの起業家支援を目指し、業界に新風を起こすエンジェルラウンド株式会社。今回のVCインタビューでは、同社の代表取締役社長 大越匠さんにお越しいただきました!
2部構成のインタビュー【前編】では、大越さんのこれまでのキャリアや経験、そしてエンジェルラウンド社設立の背景についてお話を伺いました。彼がどのような思いで起業家支援に取り組んでいるのか、その歩みを追います。
大越 匠さんのバックグラウンド
ーまずは大越さんのご経歴を教えてください。
大越氏:ファーストキャリアはイシン株式会社(当時:株式会社幕末)という会社で、2010年に新卒で入社しました。現在では上場企業ですが、私が入社した頃はまだ小規模で社員が15人程度でした。入社後は「ベンチャー通信」と「経営者通信」という2つの紙媒体を中心に広告営業を担当しており、ビジネスモデルはほとんど広告収益で成り立っていました。営業スタイルは、リストを自分で作成し、電話やメールでアポイントを取り、訪問して広告掲載を提案するというもので、経営者との直接的なやりとりが多かったのが特徴です。この業務を通じて、経営者とのつながりを築けたのは貴重な経験でした。
ー事業会社での「ザ・営業職」からのスタートなんですね。
大越氏:その後はイシン現代表の片岡さんとデジタルメディア事業を立ち上げました。この新規事業は半年ほどで軌道に乗り、2つの部署を統合して事業責任者として約2年間組織を運営しました。この間、組織の成長を目の当たりにしつつ、マネジメントにも携わる機会を得ましたが、次第にマネジメントより新規事業の立ち上げに注力したいと考えるようになりました。
そこで新規事業専任の部署を立ち上げ、地方自治体と民間企業をマッチングする地方創生関連の事業に注力したのですが、このプロジェクトはIPO後の事業収益を支える基盤づくりという命題で、事業の方向性を定める重要な役割を担いました。その後2022年6月にイシンを退職し、スカイランドベンチャーズというVCに参画しました。ここでは既存投資先の支援や新規投資に携わる一方、次第に会社を立ち上げたいという思いが強まり、2023年5月にエンジェルラウンドを設立し、ファンドを立ち上げるに至ります。
ー新卒1社目にイシン社を選んだのはなぜですか?
大越氏:大学に入学してすぐ、たまたまリクルートの創業者である江副さんの本を読む機会がありました。その本を通じて「こんな会社があるんだ」と衝撃を受け、「大学卒業後はリクルートに行くしかない」と決めていたんです。就職活動では幸運にもリクルートの選考を通過し、内定をいただきました。しかし入社を決意する段階で、営業部長や新規事業担当の方々の話を聞くうちに、自分が本で抱いたイメージと現実の乖離を感じるようになりました。
その背景には、リクルートが上場直前であり、すでに大規模な企業となっていたこともありましたが、やはり「ミスマッチの可能性がある」と判断し、大学卒業間際の12月に内定を辞退することを決めました。
しかし「やっぱり就職はしなければいけない」と思い、リクルートの人事の方や知り合いから、「リクルート出身の社長が作る会社はリクルートに似た風土を持っていることが多い」という話を聞き、リクルート出身者が立ち上げた会社を調べることにしました。20社ほどリストアップしてメールでアプローチした結果、一番最初に返信があった会社で、さらに一番早く内定をいただいたというご縁で、イシンへの入社を決めました。
ーすごい決断力ですね!大学の同級生や周りの人から驚かれたのでは?
大越氏:友人からはかなり言われましたね。「リクルートを辞退するってどういうこと?」とか。当時、ありがたいことにいくつか内定をいただいていましたが、特にリクルートを辞退することについては驚かれることが多かったです。ただ、強く止められることはありませんでした。周りの友人も、どちらかというと個性が強いというか、変わった考え方をする人が多かったからかもしれません。
ーその後、スカイランドベンチャーズ社へ転職した経緯を伺いたいです。
大越氏:2022年の年末くらいにM&Aクラウドを立ち上げた及川さんとお話しする機会があり、その時に転職の話をしたら及川さんがスカイランドの木下さんを紹介してくれたんです。
当初はコンサルをやろうかなと漠然と考えていたのですが、木下さんから「うちの会社に入ってスタートアップ支援をやらない?」と声をかけてもらい、その提案を受けることにしました。スタートアップやVCについては当時ほとんど知識がありませんでしたが、「グロースアップという観点でやることは変わらないだろう」と考え、2022年7月からスカイランドに入社しました。
スカイランドでは、既存の投資先のバリューアップ支援を行いながら、新規投資にも関わりました。また、まだ人数が少ないチームの中で、投資チームのマネージャー的な役割も担い、1年弱ほど在籍しました。
ー色々な方々とのご縁で大越さんのVCキャリアが始まったんですね。
エンジェルラウンド設立の背景
ー2社でのご経験を経て、エンジェルラウンド社の設立に至った背景を教えてください
大越氏:国の「スタートアップ育成5か年計画」の影響が大きいです。この計画発表直後、エンジェル投資家を優遇する「エンジェル税制」の改正と、事業会社や大企業がスタートアップをM&Aしやすくする「オープンイノベーション促進税制」の改正。この2つの制度が立て続けに発表されたんです。この施策によってエンジェル投資家が増え、大企業のM&Aが活発化することで、2023年から4〜5年の間にスタートアップのスモールエグジットが増えるのではないかと感じたんです。
同時に、イシンで地方自治体関連の事業に携わっていた経験も影響しました。行政や官公庁、大企業、上場スタートアップの関係者と話す中で「国が予算をつけた政策は、名前が変わりながらもずっと継続される」ということを感じていました。
このことから、「エンジェル税制」と「オープンイノベーション促進税制」も一度制度化されれば、簡単には無くならないだろうと考えました。
であれば、このスタートアップ育成5か年計画にアジャストさせたファンドを作る方が良いのではないかと、アイデアが浮かんだんです。スカイランドの木下さんにこのアイデアを話したところ、背中を押していただきました。そこから徐々に準備を始め、最終的に独立することを決めたんです。
ー独立直後の段階で大変だったことは何でしょうか?
大越氏:ファンドを組成する際に直面した大きな課題は2つです。1つは、金融庁が認める適格機関投資家をLPとして1名以上組み込まなければならないこと。もう1つは資金集めです。周りにも「ファンドをやりたい」と言っている人がいましたが、多くの場合、このどちらかもしくは両方を達成できず断念しています。私自身もうまくいくのかは不安で、難易度が高いと感じました。
そこでスカイランドの木下さんに相談したところ、「適格機関投資家を紹介するよ」と言っていただき、紹介してもらえたんです。その方がたまたま以前からイシンの社外取締役を務めていた方で、私もその方の存在を知っていました。
そして直接お話をしたところ、その方も私がイシン出身ということを知ってくださっており、結果的に快諾していただけたんです。
これで適格機関投資家が決まり、残る課題は資金集めのみとなりました。「これは営業活動だ」と感じ、営業は私の得意分野の1つでもあったので、ファンドの組成が現実味を帯びていったという流れでした。
エンジェルラウンドという社名の由来
ーなぜエンジェルラウンドという社名にされたのですか?
大越氏:資金調達の最初(エンジェル)に入れるファンドという意味を込めて、「エンジェルラウンド株式会社」という社名にしています。戦略的に決めた意図もあり、スタートアップが資金調達を検討する際にどのようなキーワードでVCを探し、検索するかを考えた結果、この会社名にしました。特にSEOを意識していて、いわばマーケティングに近い発想です。その成果もあって「調達の相談をしたい」という問い合わせが、今月中旬(2024年12月)だけでも40件ほど来ており、新規の相談案件が次々と入ってくる状況になりました。
ー大越さんの事業サイドでのご経験が生きているんですね。
大越氏:後ほど説明しますが、我々の投資条件である「ソリッドベンチャー」は簡単には見つからないんです。個人的にも、ソーシングが非常に難しいと感じていて、だからこそインバウンドで集める仕組みにしようと考えました。その結果として、会社名を工夫して今の形を作ったんです。「ソリッドベンチャー」とは、事業継続性が高く、収益モデルが堅実であるベンチャーを指す当社独自の概念です。(ソリッドベンチャーの詳細については後編で改めて説明します。)
個人的にはVCにも事業会社出身の方が増えれば、スタートアップ支援がさらに多様な形で広がるのではないかと感じています。すでにその流れは始まっていますが、事業立ち上げの経験やマーケティングのノウハウを持つ人材が増えると、スタートアップの課題解決にも一層貢献できると思います。
投資の方針や投資における軸
ー社名の由来にもなっている投資方針をもう少し伺っても良いでしょうか。
大越氏:うちのファンドは、ほぼ最後発のマイクロファンドです。それもあって投資方針については最初から明確に決めていました。基本的には問い合わせいただいた企業の中から選別させていただきますが、基準となる条件を3つ設けています。
1つ目は「30代以下の起業家への投資」、2つ目は「バリュエーションの合計が一定未満のスタートアップへの投資」、3つ目は「ソリッドベンチャーへの投資」です。この3つを組み合わせて投資方針にしています。特に3つ目の「ソリッドベンチャーへの投資」という部分はエンジェルラウンドの大きな特徴かと思います。
ーそのうえで注視しているポイントはどこですか?
大越氏:「自ら営業に取り組もうとする姿勢があるか」です。過去に一度、投資判断のプロセスを分析したことがあります。その結果、90%は出資の検討すらせずにお断りしていることがわかりました。投資をしなかった会社に共通する特徴を見ていくと、「営業やマーケティングを重視していない」といったケースが多かったです。こうした会社は、概ね「良いプロダクトを作れば売れる」という考えに偏っている傾向がありました。
また、調達の目的が「営業ができる人材を採用するため」といったケースもあります。ただ、そうした場合に「自分で売らないんですか?」と尋ねると、営業に自ら取り組まない姿勢が見受けられることが多く、これが主なお断り理由となっています。もちろん、こうした会社が絶対にダメというわけではありません。お断りした企業が別のファンドから調達に成功している例もあり、良し悪しというよりは、うちのファンドの投資方針として合わないというだけです。
ー起業家自身が自分で事業や売上・利益を作っていけるか、という点を重視しているんですね。
大越氏:そうですね。たとえ今取り組んでいる事業やプロダクトが失敗しても、「この人なら事業を継続できそうだな」と感じるかどうかを基準にしています。アイデアそのものも大事ですが、その人自身の力や魅力という部分を最も重視しています。
(前編はここまで)
エンジェルラウンド社の投資方針の1つとして出てきた「ソリッドベンチャー」。これは同社の大越さんが新たに定義した概念です。
後編では、大越さんが定義する「ソリッドベンチャー」とは何か?を中心に、エンジェルラウンド社の特徴や大越さんの想いに迫ります!
(後編に続く)
後編:https://startuplog.com/n/n772d07cfe526
【本記事で紹介させていただいたエンジェルラウンド株式会社様】
[会社名]エンジェルラウンド株式会社
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