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シード期の資金調達手法 J-KISS(日本版 Keep It Simple Security,コンバーティブルエクイティ)とは?

J-KISS / コンバーティブルエクイティとは

実体経済と金融市場双方の課題を解決する手段として、転換価額(Valuation Cap or 次回ラウンドの時価)の算定式のみが設定された新株予約権等により資金供給を行い、将来企業価値評価の正確性が高まったタイミングで株式転換を行う「コンバーティブルエクイティ/コンバーチブルエクイティ/J-KISS」の有効性に着目が集まっています。

<参照:「コンバーティブル投資手段」活用ガイドライン>

米国では活用が進む一方で日本国内では「J-KISS / コンバーティブルエクイティ」の認知度が低く、実務処理が一部複雑となり得ること等から、普及が進んでいないのが現状です。

<参照:「コンバーティブル投資手段」活用ガイドライン>

J-KISSは「簡単に早くシンプルに」をコンセプトに設計された資金調達手法です。有償の転換価格調整型新株予約権ですが、図解を使い分かりやすく説明できればと思います。なお、下記の記載はStartup Innovatorsの記事を参考にさせていただきました。また、Coral Capital 澤山様には不備をご指摘いただきありがとうございました。また、経済産業省からは、「コンバーティブル投資手段」活用ガイドラインも発行されておりますのでそちらもご参考にされてください。

J-KISS / コンバーティブルエクイティの特徴

✔有償の転換価格調整型新株予約権
✔A種優先株式を割引価格で取得できる
✔バリュエーションをシリーズAラウンドまで先送りできる
(企業価値評価の先延ばしが可能)
✔簡単・早い・シンプルな投資契約(リーガルチェックの負担が少ない)
✔入金までのスピードが速い(迅速なファイナンス)
✔柔軟なインセンティブ設計が可能

<参照:「コンバーティブル投資手段」活用ガイドライン>

転換価格調整型 新株予約券とは

まず新株予約権とは、発行した株式会社に権利行使することで、その株式会社の株式交付を受ける権利のことです。新株予約権証券の所有者は、新株予約権を行使して、一定の行使価格を払い込むことで、会社に新株を発行させる、または、会社自身が保有する株式を取得することができます。

具体的には、J-KISSの場合は新株予約権として登記をして、株主総会で発行する個数を決めておき、それを投資家に割り当てる形になります。例えば投資家は1,000万円投資する代わりに新株予約権を一個もらう、しかしながら出資の段階では一個の新株予約権が何株になるかは決まっていません。投資家にとって不利な条件ですが、その代わりとしてバリュエーションキャップディスカウントといった投資家保護の観点も含まれています。

J-KISS型の新株予約権は、将来シリーズAが発生した場合に、A種優先株式に転換される設計となっています。株数はシリーズAの時価総額をもとに決定します。そのため、エンジェルラウンドやシードラウンド、プレシリーズAラウンドのスタートアップに有効な資金調達手段と言えます。

具体的には、スタートアップが1.5年以内に1億円以上を調達する資金調達(シリーズA)を行った場合、投資家はシリーズAのバリュエーションに対してバリュエーションキャップもしくはバリュエーションがキャップ未満の場合、株式転換時のバリュエーションから20%のディスカウントを受けて株式(A種優先株式等)を取得する、といった形です。

バリュエーションキャップとは、シリーズAのプレマネーバリュエーションがバリュエーションキャップよりも大きい場合に、J-KISS型の新株予約権の株式への転換にあたり用いる転換価額をバリュエーションキャップをベースに計算します、ということです。

具体的には、スタートアップがシリーズAを行った場合、シリーズAのプレマネーバリューションが10億円だったとします。バリュエーションキャップが1億円の場合、シリーズAのプレマネーバリュエーションが10億円にも関わらず、投資家にはプレマネーバリュエーションが1億円であるとした場合、何株割当るかを計算するものです。

仮に2,000万円J-KISSにより調達していた場合、本来10億円/1万株=10万円/株の割り当てになるところ、バリュエーションキャップによりJ-KISSで出資したVCには1億円/1万株=1万円/株で計算された株式比率で割り当てられるということです。

上記ケースですと、J-KISS型新株予約券(2000万円)に対して1株1万円として2,000株の株式が割り当てられることになります。このようにディスカウントとバリュエーションキャップによって先行者優位性が担保されています。

ディスカウントで転換される事例も見てみましょう。例えば、18ヵ月以内にシリーズA(ここでは1億円を超える資金調達)を迎えられず、転換期限にディスカウントで転換されるケースです。バリュエーションキャップに届かなかった場合、ディスカウントが適用されます。

そのためバリュエーション8,000万円×0.8=6,400万円にて優先株に転換されます。Capで転換されるケースに比べて多くの株式を放出しているのがわかります。

メリット

J-KISSは、種類株式に比べて発行に関するコストが低く、また負債にならない点で、シード期の資金調達手法として適しています。加えて、転換時にバリュエーションが決定されるため、企業価値の高まった段階で株式比率が決定されるという特徴があります。このような観点から、起業家にとっても有利となりやすい資金調達手法と言えます。

着金までのスピードも順調に行けば1ヶ月程度で着金可能で、外国為替及び外国貿易法(外為法)に規定されている外国投資家による国内企業(スタートアップ含む)への株式投資等(対内直接投資等)について、安全保障に支障を来すおそれがないか等を審査するための取引実行前の事前届出が義務付けられていますが、こちらも株式転換時(シリーズA)まで回避できます。

・企業価値の簡易評価に加え、発行体であるスタートアップ側でBSへの負債計上がない
・契約ひな形 「J-KISS」 や「SAFE」が無償提供されている
・2019年の1億円未満調達では、 約10%が「コンバーティブルエクイティ / J-KISS」を利用

<参照:「コンバーティブル投資手段」活用ガイドライン>

デメリット

J-KISSは、シード期の資金調達において重要なポイントとして指摘した、「シード期で多くの株式持分を第三者に付与しすぎない」、「負債でないため資本が厚くなる」といった観点からみて、望ましい資金調達手法ですが、発行コストと企業のバリュエーションについては必ずしも期待したような結果とならないケースもあるためいくつかデメリットをあげます。

①必ずしも低コストにならないケースがある
J-KISSは原理的には投資契約等をシリーズ A に連動させるため、投資契約に関する交渉やリーガルレビューに要するコストが低下します。また有償新株予約権の場合、バリュエーションも実施しないため、低コスト化が行われます。さらに運用上は、用いられる証券のデファクトスタンダードが確立し、フェアな内容になっているとともに、利用経験のあるプレイヤーが多数存在しているような場合には、非常に短時間、低コストで発行されます。実際に、たとえば米国のような先行している国では、低コストの調達手法として普及しています。

しかし、日本においてはまだ充分に普及していないため、リーガルレビューや登記実務に対応できる専門家が限定されていること、協調投資をする他の投資家や、シリーズ A 以降の投資家等と個別に検討する必要が出てくることがあり、米国ほどに低コストでの発行ができない可能性があります。

②キャップによりバリュエーションが事実上決まってしまう
転換価格におけるバリュエーションキャップ(企業価値の上限)が低く定められてしまうと、転換時により低いバリュエーションで転換されるため、起業家にとってはメリットがなくなってしまうケースがあります。

本来は、バリュエーションを後ろ倒しにできるため、起業家がより有利な株価で資金調達ができると考えられていますが、バリュエーションキャップが付けられているために、事実上バリュエーションが固定化している手法と変わらないとも言えます。低すぎるバリュエーションキャップを付けられてしまうと、シード期の投資家に安く大きなシェアを取られてしまうので、注意してください。また雛形をカスタマイズした契約書を使用または提示された場合は、弁護士や司法書士などの専門家に相談されることをオススメいたします。弊社からもご紹介可能です。

<参照:「コンバーティブル投資手段」活用ガイドライン>

まとめ

J-KISSは、実質バリュエーションキャップが上限になるとは言え、バリュエーションを先送りできシンプルかつスピーディーに資金調達できる手法としてシードラウンドのスタートアップは知っておくべき資金調達手法だと思います。

J-KISSを開発されたCoral Capitalさんや森・濱田松本法律事務所の増島雅和さん、aviators司法書士事務所の司法書士 真下幸宏さんらに敬意を表しつつ、積極的に利用していきましょう。

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