【VCインタビュー】ソリッドベンチャーとは?エンジェルラウンドが描く新たな未来(後編)
“The Choice of Entrepreneurship 〜起業家という選択をもっとあたりまえに〜”
新たなスタイルでの起業家支援を目指し、業界に新風を起こすエンジェルラウンド株式会社。今回のVCインタビューでは、同社の代表取締役社長 大越匠さんにお越しいただきました!
2部構成のインタビュー【前編】では、大越さんのこれまでのキャリアや経験、そしてエンジェルラウンド社設立の背景についてお話を伺いました。彼がどのような思いで起業家支援に取り組んでいるのか、その歩みを追います。
前編はこちら:
ソリッドベンチャーとは
ー投資方針の1つでもあり、大越さんの提唱する「ソリッドベンチャー」について教えていただけますか?
大越氏:ソリッドベンチャーとは、既存事業を持ちながらも急成長を目指す企業を指します。マーケットイン型で既存の顧客基盤を持つ点が特徴で、スタートアップと中小企業の中間的な存在と言えます。例えば、助成金のコンサル事業を始めたとします。この事業であれば、20名程度の組織で年商10億円規模のビジネスを継続することも十分可能です。そのまま中小企業として安定的に事業を進める選択肢もあります。しかし、ソリッドベンチャーは「もっと急拡大したい」「急成長したい」と考える企業です。
ー堅実(ソリッド)な事業はあるが、そこで留まろうとしていない企業ということですね。
大越氏:そうです。こうした企業は、既存の枠組みでは中小企業と呼ばれますが、スタートアップとも少し異なります。より大きな成長を目指しているけれど、スタートアップや中小企業というラベルがしっくりこない。適切な呼び名がないことに気づいたんです。
そこで、スタートアップに対比する形で「ソリッドベンチャー」と定義しました。このラベルをつけることで、そうした企業がうちの投資方針にマッチするようになり、さらにそのような企業が増えてほしいという願いも込めています。これが「ソリッドベンチャー」という定義を作った背景と、その狙いです。
ソリッドベンチャーに投資する理由
ーなぜソリッドベンチャーに投資しようと考えたのでしょうか?
大越氏:きっかけは独立を考えた時、上場企業の特徴を分析したことです。毎年100社ほどが上場していますが、そのうち60社〜70社はグロース市場にIPOしています。その中でいわゆる「Jカーブ型」の赤字上場をしている会社は15社〜20社程度です。
さらに、特定のセクターに絞ると、この割合はさらに低くなる傾向にあります。一方で、残りの80社近くの会社はどういう特徴があるのかというと、外部資金をほとんど調達せずに上場しているケースが多いんです。IPO直前に流動性を担保するための調達を行うケースはありますが、それ以外は自力で成長してきた会社が大半を占めています。
ただ、これらの会社が資金調達ニーズを持っていなかったかというと、そうではありません。こうした企業は創業から上場までに約15年を要することが多く、資金を入れていればもっと早く成長し、上場できた可能性が高いと感じています。
ーソリッドベンチャーが資金調達方法を認知できてなかったんですね。
大越氏:「知らなかった」もしくは「やらなかった」だけだと思います。
そこで、私はそうした企業を見つけて投資することに価値を見出しました。また、これらの企業に対してエクイティ調達の可能性を伝えるのは、ある意味啓蒙活動に近いとも考えています。彼らにこの選択肢を提案し続けることが必要ですし、潜在的な対象企業の数は非常に多いと考えています。
ソリッドベンチャーはなかなか目に見えないところにいます。だからこそ、私が「ソリッドベンチャー」という概念を提唱し、まずは当人に気づいてもらうことで、彼・彼女らが自分たちを進化させるきっかけを提供したいと考えています。結局、上場したものの、その会社がベンチャーともスタートアップとも中小企業とも言い切れないケースがあります。そうした企業を「堅実なビジネスを展開するベンチャー」と捉え、「ソリッドベンチャー」というラベルをつけるんです。そして、「うちはこういった企業に投資するんだ」と明確に宣言している、という感じです。
投資先への支援について
ー投資先への経営支援もされていると思いますが、具体的にどのような支援をしていますか?
大越氏:LPとのつながりを最大限に活用した支援が特徴です。うちのファンドのLPは約8割が個人投資家で、その内訳は上場企業のオーナー、上場後に退任した方、M&Aでエグジットした方、IPO準備中の経営者といった方々です。基本的に、ほぼ100%オーナー経営者の方々からの出資で成り立っています。例えば、LPである個人投資家が直接投資先と面談を行い、事業提携が成立したケースや、営業支援の一環として受発注の新規ルートが生まれたケースがあります。この仕組みが、従来の「ハンズオン支援」ではカバーしきれない規模感とスピード感を実現しています。これが、シードやプレシードのラウンドにいる起業家にとって大きなメリットになると考えています。事業会社ではなく個人投資家をLPにする方針を選んだのも、こうした背景がありました。
ー個人投資家の方ですと、連携の際に意思決定や実行のスピード感もありそうですね。
大越氏:ファンドから提供できる価値として、「ハンズオン支援」を掲げることもできますが、そもそも時間やリソースには限りがあります。また、個人のネットワークも使い切れば終わりで、再現性に欠けるという課題があります。なので、うちのファンドは「LPとのつながり」へ完全に振り切る方針をとっています。
投資先と個人投資家であるLPをつなげることで、スピード感高く様々な可能性を広げていく。この仕組みこそがうちのスタイルであり、提供している支援の特徴だと思います。
ソリッドベンチャーを支援する中で感じる課題
ーソリッドベンチャーの支援をしていて日本の課題は何だと捉えていますか?
大越氏:難しい話で一概には言えないんですが、起業家を主語にして話をすると1社目でいきなりユニコーンを目指すのは個人的には懐疑的です。時価総額1,000億円を超える会社になるのは、ごく一部の成功例です。ただ、そういった例が注目されがちなのも事実で、直近ではタイミーさんや、一昨年のANYCOLORさんのような、若手で時価総額1,000億円オーバーの上場例が話題になります。
そのこと自体はとても素晴らしいことだと思いますが、その陰には多くの失敗例が存在するわけで、それがあまりフォーカスされていない現状は健全とは言えないと感じます。
それならば、まず1回目の起業でM&Aを目指し、自分のキャッシュを作り、その経験を元に2回目、3回目でユニコーンを目指す方が、時間的にも確率的にも理にかなっていると思うんです。実際、シリアルアントレプレナー(連続起業家)には大きな資金が集まっていますよね。例えば、newmoさんや令和トラベルさんなどは、シードで何十億円も調達しています。newmoさんが大阪のタクシー会社を買収するようなスケールの大きな動きができるのも、シリアルアントレプレナーだからこそです。
ーユニコーンの目指し方は画一的ではないということですね。
大越氏:投資家側も近年ではファンドサイズが大規模になるケースも増えており、数百億円規模のファンドでは、小口の出資を控える傾向が一部あると思います。直近の例でも、規模の大きなファンドがディープテックや宇宙関連に大きな資金を投入するといった話を聞きました。先ほどお話したようなシリアルアントレプレナー(連続起業家)に30億円等でまとめて出資するような動きも増えています。
こうした背景を踏まえると、1社目でいきなりユニコーンを目指すのではなく、まずは会社を成功裏に売却し、2回目や3回目の起業で大きな信頼と経験を武器に資金を集めて挑戦する方が合理的ではないかと思っています。
うちのファンドは小規模で、エグジットの形も多様化できるので、起業家自身の目標に応じた支援が可能ですし、エグジットの形も起業家に委ねるというスタンスで進めています。
エンジェルラウンドのビジョンとは
ーそれではエンジェルラウンドさんの今後のビジョンを教えてください。
大越氏:「ソリッドベンチャー」という概念を広げ、日本中で安定しつつも成長を目指す企業が増える未来を目指したいです。小規模なファンドの強みを活かし、投資対象の企業に深く関与しながら、資金だけでなくネットワークや知見を提供する。この取り組みが、スタートアップや中小企業の垣根を越えた新しい産業構造の形成につながると信じています。
うちは小規模なファンドのため、出資できる会社の数は限られています。だからこそ、同じようなコンセプトに共感してくれる人たちと一緒に取り組んでいきたいという思いがあります。投資のあり方が多様化することは非常に重要だと考えていますし、うちのような投資対象は主流ではなかったはずですが、今ではそうした企業への関心が高まり、個別で「ソリッドベンチャーに共感しています」というDMをいただくことも増えています。これからも、こういった投資家や起業家がどんどん増えていけば良いなと思います。
ー最後に起業家や起業を検討している方々へメッセージをお願いします!
大越氏:お伝えしたいのは、「事業に向き合う」ということの大切さです。どうしても投資家に向き合う時間やエネルギーが増えてしまいがちですが、それよりも、しっかりと事業に向き合える環境を自分自身で作る方が、精神的にも健全であると感じます。
起業家にとって、売上や利益が見えている状況というのは、非常に大きな安心材料にもなります。ですので、そうした選択肢があるということを知っておくのは重要だと思います。「キャッシュの見える化」を意識した事業運営も、起業家としての成功に向けた1つの道ではないかと思っています。
―大越さん、本日は貴重なお時間をありがとうございました!大越さんが提唱する「ソリッドベンチャー」、起業家の1つの選択肢としてこれからも業界内外問わず、広がっていくのではと感じさせていただきました!
大越さんのお話を聞いてみたい!という起業家・投資家の方は以下のCONTACTページからご連絡をお願いします。
また、エンジェルラウンドさんの運営するオンラインマガジン「ソリッドベンチャーズ」は以下のURLよりご覧ください。
【本記事で紹介させていただいたエンジェルラウンド株式会社様】
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